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[No.1656]

  • (木)

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「表紙」2017年01月19日[No.1656]号

父娘日和

父娘日和 41


福元 保秀さん
有限会社珊瑚建材 トラックドライバー 金城 都さん

オトーお墨付きの「トラガール」

 輸送トラックの中でもとりわけ大型車の10トントラック。ダンプカードライバーは男性憧れの職業でもある。金城都さん(36)は、建設資材を載せたその巨体を工事現場へ毎日5往復走らせている。数少ない女性トラックドライバーで、国土交通省が名付けた「トラガール」だ。小学生のころ、父親の福元保秀さん(67)がダンプカーの助手席に乗せた娘は長じて運転席でハンドルを握っている。「メンテナンスはオトー(父)に習った」と都さん。35年ほどダンプカーを走らせてきた保秀さんは、「癖がなく、基本がしっかりしているから大丈夫」と、都さんの運転技術に太鼓判を押す。



時代の荷を載せて走る

 琉球石灰岩を砕石した10㌧の路盤材を積載し、糸満市大度の採石場から工事現場へ大型トラックで配送する金城都さん。原体験は小学生のころ、父親の福元保秀さんのダンプカーの助手席にあった。「父のダンプカーで学校へ送ってもらったり、休みの日に出かけたりした」と笑う。

 保秀さんはトラックの運転が好きで、祖国復帰前の制度を利用し18歳で大型トラック免許を取得した。本土に渡り、22歳で中古のダンプカーを所有して以来、57歳で引退するまでほぼドライバーの稼ぎで家族を養ってきた。

 大型トラックドライバーは、運送業免許を持ち1人1車の「持ち込み」という個人事業の業態がある。「持ち込みで製鉄会社や酒造会社、外国資本のテーマパーク造成地に土を運んで働いた」

 3年後、保秀さんは父親の命で、車を売り帰郷した。その後も建設業を営むいとこのつてで、公共事業の造成地にダンプカーを走らせた。運んだ石灰岩のクラッシャーラン、流しコーラル、石粉は県立豊見城南高校、豊見城総合グラウンド、那覇新都心などの建設資材である。時代を象徴する公共事業の建設資材を配送してきた父の仕事を誇らしげに聞く都さんはトラックドライバーへ夢を募らせていった。

オトーを助手席に

 「いつかはダンプカーを運転したい。男に生まれたかったくらい」。都さんは、父や長兄らが大型トラックドライバーという家庭環境で、大らかに育った。

 大型トラック運転免許を取得したのは23歳。そしてハンドルを握ったのは34歳。「それまで少し寄り道をした」と振り返る。中学卒業後看護助手に就き、20歳で結婚。3男1女に恵まれ、子育てが一段落した一昨年、念願のトラックドライバーに就いた。

 朝7時半に出社すると、エンジンオイル、グリス、ラジエーターのチェックなど、乗車前の点検は欠かせない。「メンテナンスはオトーから教えてもらった」

 入社時、糸満市摩文仁の公園付近を慣らし運転する助手席に保秀さんが座ったが、2日目には帰ってしまったという。

 「助手席は疲れる。都の運転は安心して乗れた。生まれつきかな、技術が備わっているのはすぐ見て取れた。勘どころを押さえている」

 この1年半、都さんが無事故でこれたことを保秀さんのお墨付きが物語っている。

女性ドライバーをもっと

 "トラック野郎"に象徴されるように、男性中心のトラック運送業界は今、女性ドライバーの活躍を促進する。2014年国土交通省は女性トラックドライバーを「トラガール」と名付けて、取り組みを発信。

 都さんは昨年10月9日、全日本トラック協会が定めた「トラックの日」にトラガールとしてラジオ番組にも出演した。さらに会社の勧めもあって、県内の女性ドライバー代表として7、8年ぶりにドライバーコンテストの全国大会へ出場。成績は女性部門17位にとどまったが「全国レベルを知り、自身の運転技術に気づくいい機会だった。きれいな女性ドライバーが"ダンプを転がす"職場である、もっと女性ドライバーが増えたらいい」と語る。

 いつかダンプカーを所有したいという都さん。女性トラックドライバーを母親に持つ次男は„トラック野郎“に憧れているが、母親として気持ちは微妙だ。事故のリスクもある、安定した仕事に就いてほしいと願う反面、三世代トラック運転手もいいのかなと思う。基本に忠実な安全運転。都さんはオトー譲りの運転技術で今日もダンプカーを走らせている。

(伊芸久子)





プロフィール

ふくもと やすひで
 1949年糸満市生まれ。沖縄の祖国復帰前、18歳で大型自動車免許を取得。本土で22歳に中古のダンプカーを購入し、「持ち込み」で企業の配達に従事する。26歳で帰郷。県立豊見城南高校、豊見城総合グラウンド、那覇新都心など開発事業に建材を配達。35歳のころ、有限会社珊瑚建材の前身に勤め、10年前定年。息子2人、都さんは長女。次男は本土でダンプカーを運転する。定年後は地元でサトウキビを栽培する

きんじょう みやこ
 1980年糸満市生まれ。糸満市立三和中学校卒業後、看護助手に従事する。20歳で結婚、4児の母。23歳で大型免許を取得。2007年大型自動二輪免許を取得。1年半前に有限会社珊瑚建材に入社。2015年全国トラックドライバーコンテスト女性部門17位

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福元 保秀さん 金城 都さん
金城都さんがドライバーを務める大型トラックの前で、父の福元保秀さんと。ベテラントラックドライバーだった保秀さんは、引退して久しいが運転前のメンテナンスを伝授する=珊瑚建材(糸満市) 
写真・村山 望
福元 保秀さん 金城 都さん
保秀さん所有のダンプカーの前で都さんの成人式に 2000年1月
福元 保秀さん 金城 都さん
スズキGSX1100Sカタナに乗る都さん。休日は夫の悠さんら仲間とツーリングを楽しむ
福元 保秀さん 金城 都さん
女性部門県代表として、全国トラックドライバーコンテストへ出場 2016年10月
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