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[No.1655]

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「表紙」2017年01月12日[No.1655]号

父娘日和

父娘日和 40


祭祀(さいし)採音者 宮里 千里さん
宮里小書店 副店長 宮里 綾羽さん

市場の古書店から文化発信

 那覇市の栄町市場にある「宮里小書店」は、エッセイストとして知られ那覇市役所職員だった宮里千里さん(66)が、退職後に開いた小さな古本屋。長女の綾羽さん(36)が副店長となり、千里さんの思いを引き継いでいる。千里さんは現在、約40年録りためた祭りの音を編集し、CDにする作業を進行中。千里さんに連れられ子どもの頃からアジアを旅してきた綾羽さんは、連載コラムを書いているうちに「幼い時の旅行の記憶が、執筆活動の根底になっている」ことに気付いたそうだ。録音と執筆、記録にこだわる親子は刺激を与え合う関係なのかもしれない。



人生懸けて録る祭りの音

 「夢中になれる事が常にあるのが父。キーワードは音・旅・祭り・豆腐です」と、宮里綾羽さんが表現する父・千里さんの人物像。元那覇市役所職員で、多数の著書を表わしエッセイストでもある千里さんは現在、祭りの音を記録する採音活動に力を入れている。

 「那覇市役所での勤務は全うしたという思いがあります。自分のできる限り、一生懸命やってきました。そして、休日のプライベートの時間は録音する活動を続けました」

 休日を全て録音活動に充てていた千里さんは、結婚休暇も活動に合わせたという。

 「1978年、久高島の神女(ノロ)の就任式、イザイホーが最後になるかもしれないという状況で、現地に滞在するために急いで結婚しました(笑)」

 千里さんの妻も祭り好きな女性で、一番の理解者だったようだ。その時に録った音は38年の時を経て、昨年CDになった。東京のCDショップではワールドミュージックの棚に並び、音楽ライターの推薦アルバムとして紹介されるなど、大きな反響を得たという。

 「沖縄本島に八重山、宮古、奄美。40年以上祭りなどの音を録音してきたので、整理していきたい。生活音など、その地域に暮らす人々の息づかいも拾います。途絶えてしまった祭りが多いですし、録った側の責任としてまとめたいんです」

 千里さんは祭りの音を収録するCDシリーズの制作を、計画中だ。

客層広い古書店

 市役所を辞めた後「大人の学童保育所のような居場所が欲しい」という思いで、千里さんは2013年に「宮里小書店」を始めた。好きな本、薦めたい本を集めた古書店だ。代が替わったのは翌年。千里さんに新たな仕事の誘いがあり閉店を考えた矢先に、育児に励んでいた綾羽さんが名乗り出た。

 「せっかく始めた店なので私が続けたいと、会社を辞めました。副店長になったら新聞やウェブサイトコラムの連載話が舞い込み、書く事が楽しくなっていきました」と、綾羽さん。

 千里さんに書く事を勧められ、『栄町市場界隈瓦版』というフリーペーパーを2人で作っていた。本土にも読者がいる人気の冊子だそうだ。

 綾羽さんは市場の中にある店の環境も楽しみ、子どもからお年寄りまで触れ合える機会は貴重だと語る。

 「市場では会社勤めで得られなかった濃密な出会いがあります。その出会いは私の宝物」

 綾羽さんが副店長になり、イベント開催などを始めた。東京やニューヨークに住む作家のトークショー、写真のワークショップを行ったという。

 「この小さな古書店から文化を発信できたら面白いと思いました」

良きパートナーの2人

 好きな事を見つけ夢中になって行動を続ける千里さんは、誰もがうらやましく思う生き方をしている。

 「何かやろうとすると犠牲になる人が出てきますが、それが家族」と笑う千里さんは家族、ときに一人で旅をしながら録音作業を続けた。豆腐の本を書いている最中の食卓は、豆腐チャンプルーばかりだったそうだ。今後の目標は、「聴覚でイメージがふくらむCD制作と、時々は現場に出て新しい音に触れる事」だという。

 「小書店は私にとって大切な場所。古書にカバーを掛けてきれいに見せる父の手法を続けますし、市場が持つパワーも大切にしたい」

 千里さんの影響を大きく受けた綾羽さんは、頼もしいパートナーになっている。

(饒波貴子)



宮里小書店(那覇市安里 栄町市場内)
営業時間:10時〜17時/定休日:日曜日
最新情報は「Twitter」で発信中

プロフィール

みやざと せんり
 1950年生まれ、那覇市出身。那覇市役所職員、エッセイストのキャリアを終えた現在、1970年代から続けてきた祭祀採音者としての活動に力を入れている。2016年秋には久高島の「イザイホー」(神女の就任式)を録音した音源をCD化し、注目された。過去発表した音源作品は里国隆「路傍の芸」、大工哲弘・大工苗子&スカル・トゥンジュン「ガムラン-ユンタ」他。著書には「シマ豆腐紀行」(ボーダーインク)、「ウーマク!」(小学館)などがある

みやざと あやは
 1980年生まれ、那覇市出身。多摩美術大学卒業。2014年、父・千里さん経営の「宮里小書店」副店長になり勤務先を退社。交流のある作家・池澤夏樹の公式サイト「cafe impara(http://www.impala.jp/)」にてコラム「宮里小書店便り CoffeeBreak」の連載をスタートし、出版社「ボーダーインク(http://www.borderink.com/)」の公式サイト「ほんとーく」でもコラムを執筆中。『まだまだ知らない夢の本屋ガイド』(朝日出版社)に、執筆者の1人として参加した

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宮里 千里さん 宮里 綾羽さん
栄町市場に古書店を開いた、宮里千里さんと長女の綾羽さん。市場の人たちや訪問客と交流しながら、お薦めの本を紹介している。千里さんは祭りの音を録音して記録、綾羽さんは執筆と自身の好きな活動も継続中だ=那覇市安里「宮里小書店」にて 
写真・村山 望
宮里 千里さん 宮里 綾羽さん
マカオで記念撮影。一緒に旅することが多い仲良し家族だという=2010年
宮里 千里さん 宮里 綾羽さん
台湾滞在時の千里さんと綾羽さん。千里さんは録音機材を持ち歩いている
宮里 千里さん 宮里 綾羽さん
綾羽さんが関わった、書店員による日本全国の本屋紹介本
宮里 千里さん 宮里 綾羽さん
千里さんが1978年に録音した「イザイホー」がCDに
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