沖縄の日刊新聞「琉球新報」の副読紙「週刊レキオ」沖縄のローカル情報満載。



[No.1630]

  • (火)

<< 前の記事  次の記事 >>

「島ネタCHOSA班」2016年07月21日[No.1630]号

えっ、トンボに角

 子どもが捕まえた虫。観察するとトンボのようなチョウのような…でも、もしかしてハチ!? 図鑑で調べましたが、正体がわかりません。沖縄特有の昆虫でしょうか?

(読谷村 うどん県さん)

えっ、トンボに角!?

 複数の昆虫の特徴が混在していて正体不明。一体どんな生き物なのでしょうか? 依頼者のうどん県さんが送ってくれた写真を見ると、頭部にはチョウのような長い触角があり、羽は確かにトンボ。黒く膨らむおなかはハチのようと、見れば見るほど分からなくなってきました。早速専門家への聞き取り調査を始めます!

トンボかチョウか!?

 今回話を聞いたのは、沖縄昆虫同好会会員の杉本雅志さん。子どもの頃から虫が大好きな杉本さんは、幅広い昆虫のグループに精通している専門家です。この昆虫の写真を見るなり「オキナワツノトンボですね」と、すぐに断定しました。

 オキナワツノトンボ!? 「ではトンボの一種なのですね」と念押しする調査員に、「違います」と答える杉本さん。

 「角が生えたトンボのような見た目なのでツノトンボと名付けられていますが、実はウスバカゲロウの仲間です。ネズミじゃなくてモグラに近いのに、ジャコウネズミと呼ぶのと同じです。外見から付けたあだ名が、和名になったようなものですね」

 トンボという文字が名前に含まれていても、ツノトンボは分類上「アミメカゲロウ目(もく)」に属する昆虫で、トンボでもチョウでもないそうです。「この生き物は一体何ですかと、博物館や研究家によく問い合わせが入る虫ですよ。合成生物のようですから」

 ウスバカゲロウの仲間だと確信できるポイントは、「幼虫の姿」だそうです。ウスバカゲロウの幼虫はアリジゴクなのですが、ツノトンボの幼虫はアリジゴクそっくり。大顎のはさみを武器に、餌となる小さな虫を捕らえて食べるそうです。「トンボの幼虫は水の中にいるヤゴで、ツノトンボの幼虫はアリジゴク。幼虫が似ても似つかないという事実が、同じ種類ではない証拠です」

生き方がトンボ

 調査を進めている最中に、本物のオキナワツノトンボを間近で観察するチャンスにも恵まれた調査員。しかし、どう見てもトンボなのですが…。

 「血筋としてはウスバカゲロウの仲間ですが、成虫の生き方としてはトンボに近いと言えます。だから見た目が似てくるんです。別系統の生物でも行動が同じだと、必然的に姿や機能が近づいてくるんですよ。魚のようなイルカと鳥のように飛ぶコウモリは、哺乳類ですよね。与えられた環境の中で生きるために、似通った姿や機能に進化することを、生物界では収斂(しゅうれん)と言います。ツノトンボはアリジゴクのような幼虫からサナギになり姿を変えて成虫になる完全変態の昆虫ですが、生活は不完全変態のトンボに似ています」

 なんと杉本さんはオキナワツノトンボの幼虫を飼った経験があり、繭を作り成虫になる過程を観察したそうです。最後に習性や特徴をまとめてもらいましょう。

 「初夏によく出合える昆虫です。卵は草の茎などにかためた状態で産みつけ、幼虫は草の上や地面にいます。成虫を見つけやすいのは林縁部で、昼間は動きがにぶく止まったまま。朝夕の薄暗い時間になると、盛んに飛び回って虫を食べます。昼の姿から想像できない速さで、トンボに混じってぐるぐる飛んでいます」

 いろんな昆虫に見える不思議なツノトンボですが、成長過程で形を変えトンボ風に成長するなど懸命に生きる姿がいとおしく感じました。

 「沖縄は固有な生き物の宝庫で、興味を持てば身近でたくさんの虫に出合えます。私たちより長くいる先住民と言える虫もいますので、足元の自然を理解する気持ちを1人でも多くの方に持っていただきたいですね」と、メッセージをくれた杉本さん。普段虫を意識することがあまりなかった調査員ですが、これからは気にかける機会を作ってみようと思いました。



このエントリーをはてなブックマークに追加


えっ、トンボに角
杉本雅志さん
えっ、トンボに角
チョウのような触角とトンボのような羽を持つ「オキナワツノトンボ」の成虫
えっ、トンボに角
アリジゴクのような幼虫。獲物を待ちぶせて捕らえる
えっ、トンボに角
羽を下側にたたんでとまるのが、トンボとの違い
(写真提供:村山望)
>> [No.1630]号インデックスページへ戻る

↑このページの先頭へ戻る

<< 前の記事  次の記事 >>