沖縄の日刊新聞「琉球新報」の副読紙「週刊レキオ」沖縄のローカル情報満載。



[No.1633]

  • (月)

<< 前の記事  次の記事 >>

「表紙」2016年08月11日[No.1633]号

父娘日和

父娘日和 19



陶芸家 ポール・ロリマーさん
キャサリン・ロリマーさん

沖縄の土に魅せられて

 酒がめ、スピーカー、シーサー、酒器、食器、ランプ…。南城市佐敷にある陶芸家、ポール・ロリマーさん(62)のギャラリーには独特な曲線を描いた個性豊かな作品が並ぶ。ニュージーランド出身のポールさんは陶芸を学ぶために39年前に来日した。その後、沖縄に移り住んで36年。伝統的な製法にこだわり、沖縄の土を使って作品を作り続ける。両親の工房が幼いころの遊び場だったという娘のキャサリンさん(31)は、4年前から本格的な陶芸を始めた。互いに独自のスタイルで作陶を続ける2人の作品は、ユニークな個性を放っている。



自由に憧れ陶芸の道へ

 ポールさんが陶芸の世界に足を踏み入れたのは19歳のころ。大学を中退後、公務員として働いていたとき「自由で面白そうな人生だと思って」、著名な陶芸家、バリー・ブリッケルさんの下で陶芸を学び始めた。海外にも興味があったポールさんは、休暇を取ってはヨットのクルーとして旅を重ね、太平洋やアジアの島々を回った。

 岡山県の備前に渡ったのは22歳のとき。「焼き物の神様のような国」だった日本に憧れてのことだった。そこで3年半備前焼を学んだ。暖かい場所が好きなポールさんは、石垣島から九州を巡る短い旅に出た。最初に訪れた石垣島に魅せられて「そのまま16年間動かなかった」と笑う。ニュージーランドで修行中に出会った妻の奈美さんと川平湾の近くに自宅と窯を建て、共に作陶に励んだ。

 本島での仕事や注文が増え始め、1996年に単身拠点を現在の南城市に移した。人生の大半を沖縄の地で過ごし、地元の材料を使い陶芸と向き合ってきた。

 現在母の奈美さんとともに、石垣島の工房「南島焼」を拠点とするキャサリンさん。幼いころの遊び場は両親の工房だった。物心ついたときには、粘土作りの手伝いをさせられるようになった。両親とも市販の粘土は使わず、自ら土を掘り、粘土も作る昔ながらのスタイル。「粘土作りが大変で嫌だった。絶対陶芸の道には進まないと言っていた」と振り返る。

両親と同じ陶芸家に

 高校卒業後は、関東などで飲食や接客業界に携わった。転機は約4年前。13歳下の弟、ジョナさんの高校留学に付き添う形で、1年間ニュージーランドで暮らした後だった。現地のレストラン勤務を経験したキャサリンさん。規則が緩く、自由な職場環境に慣れてしまい「日本で働けないんじゃないかと思った」と笑う。そんなとき、「軽い気持ちで実家の工房で陶芸してみると面白くて」と、本格的に陶芸を始めた。

 ポールさんは昨年、キャサリンさんをニュージーランドの師匠、バリー・ブリッケルさんの工房に連れていった。「違う環境に身を置き、誰も何も言わない環境で自由に制作し、自分のスタイルを作ってほしかった」という願いからだった。

 ポールさんの狙い通り、現在の繊細なデザインを絵付けするキャサリンさんの作風が確立された。「本当に繊細で複雑な絵を描く。独特の感性で作るデザインがとても面白い」と娘の作品を評価する。

 キャサリンさんにとってポールさんの作品は「皆は大胆だと言うけど、私には一番繊細に見える」という。「曲線や直線を大事にしていて、少しでもずれると全体が崩れてしまう。扱いが難しい沖縄の土で、そんな作品が作れるのはすごいと思う」と敬意をにじませる。

 ポールさんは、20年前から始めた泡盛の古酒造りにも力を入れている。自宅には自らが作った酒がめがずらりと並ぶ。「土の成分よって泡盛の味が変わる」と説明する。土の成分分析をした沖縄各地の土を使ってかめを作り、味の変化を研究。自身も酒が好きだというポールさんはおいしい古酒を育てるのに夢中だ。

伝統の技法を追求

 伝統的な技法で作品に取り組むポールさん。「昔の日本人は、地域にある材料を自分で調達し、独特のすばらしい作品を作っていた」と地域に根ざした焼き物への思いが強い。土も薪も自分で採集。ろくろも電動式ではなく「蹴りろくろ」や「手ろくろ」での制作にこだわり、技術に磨きをかけている。

 「ずっと泥遊びをしている。この年になっても泥だらけ。でも楽しい」と笑顔を見せるポールさん。次の作品はまだ、何も決めてないという。その理由を尋ねると、「まずデザインを考えてから材料を買いに行く人が多いけど、私は逆。土を見て形を決める。土が教えてくれる」と答えが返ってきた。次に出合う土からどんな作品が生まれるのか、楽しみにしたい。

(坂本永通子)



プロフィール

ポール・ロリマー
 1954年、ニュージーランド・オークランド生まれ。1973年ニュージーランド・コロマンデルで焼き物を学ぶ。1977年から岡山県備前市で備前焼を学ぶ。1980年石垣島に移住し、陶芸活動を始める。県内外で個展を開催。1996年、佐敷町(現南城市)に拠点を移し、活動。二男一女の父。長男はRKB毎日放送アナウンサーの三好ジェームスさん

キャサリン・ロリマー
 1985年石垣市生まれ。高校卒業後はアメリカ滞在を経験。帰国後は関東で飲食や接客業界に就職。2013年に本格的に陶芸を開始、父のポールさんと父娘展を初開催した。展示会にも多数参加。現在は石垣島に母の奈美さんと工房「南島焼」を構える

ポール・ロリマー ギャラリー
南城市佐敷冨祖崎320 ☎098-947-1630
http://www.paul-lorimer.com
※見学希望の際は要予約

南島焼
石垣市川平1218−263 ☎0980-88-2428
http://nantouyaki.jimdo.com/

このエントリーをはてなブックマークに追加



ポール・ロリマーさん キャサリン・ロリマーさん
ポールさんの作品を前に、ポールさん(左)と娘のキャサリンさん。「お父さん子」だったというキャサリンさんにとって父は「親だけど、友達のよう」と話す。一緒に飲みに行くことも多く、陶芸についても意見を交わす=南城市佐敷にあるポールさんのギャラリー
写真・村山望
ポール・ロリマーさん キャサリン・ロリマーさん
キャサリンさんの作品。繊細なデザインが印象的だ
ポール・ロリマーさん キャサリン・ロリマーさん
両親の作陶展が開催された石垣市民会館で。キャサリンさん2歳のころ
ポール・ロリマーさん キャサリン・ロリマーさん
石垣島でヤシガニを手にポーズを取るポールさんと3歳ごろのキャサリンさん
>> [No.1633]号インデックスページへ戻る

↑このページの先頭へ戻る

<< 前の記事  次の記事 >>