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[No.1634]

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「表紙」2016年08月18日[No.1634]号

父娘日和

父娘日和 20



彫刻家 フリオ ゴヤさん
臨床心理士 呉屋 るり葉さん

それぞれの才能を生かして

 県内外で精力的に活動する彫刻家・フリオ ゴヤさん(63)。金属板を素材としながらも、自由自在な造形と色彩により、時には力強さ、時にはあたたかみを感じさせるユニークな作風が人気だ。県系2世としてアルゼンチンで生まれ育ち、32歳で初めて沖縄の土を踏んだフリオさん。やがて妻の玲子さん(61)と出会い、娘のるり葉さん(28)が生まれた。今年から臨床心理士として浦添市教育委員会と、いずみ病院に勤務し始めたるり葉さん。幼い頃、父の故郷アルゼンチンを訪れた時に心理カウンセラーという職業の存在を知ったのが最初のきっかけだった。



互いの仕事 認め合う

 フリオさんが育ったのは、アルゼンチンのブエノスアイレス州。両親は西原町出身で、1951年に移民。その2年後にフリオさんが生まれた。

 親同士はウチナーグチで話すこともあったが、フリオさんが毎日の生活で話していたのはスペイン語。沖縄にも訪れたことがなく、イメージの中だけの存在だったという。

 生活は貧しく、学校を出るのが精いっぱいだったが、高校の頃に出会った美術の先生に触発され、アートに興味を持つようになった。先生の薦めもあり、フリオさんはブエノスアイレス国立芸術学校に入学。卒業後は高校の美術教師として勤める傍ら、同校大学院に通い、本格的に彫刻を学んだ。

沖縄でチャンスつかむ

 転機が訪れたのは1985年、フリオさんが32歳の時。たまたま個人的に沖縄に行くチャンスが巡ってきたことだった。「両親の故郷はどういう所か見たくて、旅行感覚でやってきました」と振り返る。

 「最初は住むつもりはなかった。でも、当時の日本はバブル期で、活気のある状況。美術のコンペや展覧会も多く、まちづくりにも盛んに彫刻を取り入れていました」

 チャンスの多い日本で彫刻に挑戦してみたいと思ったフリオさんは、沖縄への移住を決意。最初は工場でアルバイトをしながら、各地のコンクールへ作品の応募を始めた。

 最初は日本語がうまく話せず苦労したこともあったが、学校に通ったり、職場の人と話したりするうちに習得。

 35歳の時に、長野県で開かれた第2回ロダン大賞展で美ヶ原高原美術館大賞を受賞し、作品が次第に認められるようになると、彫刻の仕事に専念。以後、現在まで県内外で精力的に作品を発表し続けている。

父の郷里での出会い

 来沖後すぐ、フリオさんは学校教師の玲子さんと出会い、結婚。35歳の時、娘のるり葉さんが誕生した。

 るり葉さんは昨年、臨床心理士の資格を取得し、今年から浦添市教育委員会で主に不登校の子どもたちのサポートを行うほか、今月7月からいずみ病院に勤務している。

 カウンセラーを目指す最初のきっかけは、小学3年生の時、アルゼンチンの親戚の家に1年間滞在したことだった。

 アルゼンチンは、首都ブエノスアイレスが「精神分析の都」と呼ばれるほどサイコセラピー(心理療法)が盛んな国。フリオさんの妹も自宅の一室でセラピーを行っていた。

 「そこに大人のクライアントがよく来ていて、セラピー中は静かにしていなさいと言われました。子ども心ながらに『大人にも悩みがあるんだな』と思い、神聖な仕事だと感じました」とるり葉さん。

 その後、北九州市立大学に在学中、マッサージのアルバイトをしていた時、働き盛りの人々が疲れている姿を目にし「体だけでなく、心のケアもできるようになりたい」という思いが募った。卒業後、臨床心理士の受験資格を得るため沖縄国際大学大学院に進学。カウンセラーへの道を突き進んだ。

 「るり葉はフットワークが軽い。アルゼンチンにも1人で行ったし、自分がこうしたいと思ったことは活発に動く」とフリオさんは娘の行動力を評価する。

 父娘の仲はよく、今でもよく一緒に行動する。「子どもの頃から、彫刻家の父が自慢でした。父の友人たちと交流するのも好きで、そこで社会を見る目を教えてもらったと思っています」

 彫刻とカウンセリング。仕事の分野は違うが、るり葉さんは「それぞれが専門分野を持って、自立しているという感じなのかな」と話す。父娘は、互いの才能を認め合い、支え合っている。

(日平勝也)



プロフィール

フリオ・ゴヤ
 1953年生まれ。1951年に西原町からアルゼンチンへ移住した両親のもと、ブエノスアイレス州に生まれ育つ。高校の時に出会った教師の影響によりアートに開眼。ブエノスアイレス県立高等学校に美術教師として勤務しながら83年にブエノスアイレス国立芸術学校大学院を卒業。85年に来沖し、各地のコンクールに作品を出品。88年に長野県で開かれた第2回ロダン大賞展で美ヶ原高原美術館大賞を受賞。以後、沖縄県立美術館・博物館中庭の巨大オブジェ「太陽と月のロマンス」をはじめ、県内外でオブジェやモニュメント、レリーフなどさまざまな作品を発表し続けている。

ごや・るりは
 1988年生まれ。小学3年生の時、アルゼンチンに住む父フリオさんの兄妹のもとに1年間滞在。その時、心理カウンセラーという仕事の存在を知る。北九州市立大学を卒業後、臨床心理士の受験資格を得るため沖縄国際大学大学院に進学。2015年、臨床心理士の資格を取得し、16年より浦添市教育委員会と、いずみ病院に勤務。

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フリオ ゴヤさん 呉屋 るり葉さん
豊見城市内のフリオさんのアトリエにて。2人の前にあるのは、型紙で起こした彫刻のミニチュア。後ろには、ミニチュアをもとに、金属板から手作業で切り出す作業を行っている最中の彫刻が並ぶ 
写真・村山 望
フリオ ゴヤさん 呉屋 るり葉さん
るり葉さんが小学生の頃、父フリオさん(左)と共に
フリオ ゴヤさん 呉屋 るり葉さん
漢字をモチーフにした立体彫刻作品「鳥」。素材にLED(発光ダイオード)を使用するなど、独創的な発想が光る作品
フリオ ゴヤさん 呉屋 るり葉さん
近作「船シリーズ」中の1作品。曲線を多用したユニークな造形とともに、原色を用いた独特の色使いに引き込まれる
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