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[No.1632]

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「表紙」2016年08月04日[No.1632]号

父娘日和

父娘日和 18



花広場 代表 比嘉 稔さん
安里 恵津子さん

花のように咲く絆

 「近所の人々に愛されている花屋さん」という言葉がぴったりな、浦添市伊祖の「花広場」。代表の比嘉稔さん(79)は生花業界で約50年にわたって流通や普及に力を尽くし、人材育成にも努めてきた生花一筋の人。現在は「お客さまの希望に合わせて、花束やアレンジ花を1つ1つ作るのが楽しい」と話す。稔さんの全面的な信頼を受け、一緒に店を切り盛りする娘の安里恵津子さん(51)は「仲間と最新情報を交換する向上心のある父」と尊敬し、稔さんのこだわりとアイデアを大切にした店作りを心掛けている。花を通して父娘の絆を強めている2人だ。



男性少なかった生花業界

 「自分でも分からないのですが、花を生けることがとにかく好きなんです」とほほ笑む稔さん。やんばるの自然の中で育ち、子どもの頃から庭を作り花を植えていたという。庭いじりが楽しい遊びだったようだ。

 学校卒業後は無関係の仕事に就くが、趣味が高じて造園関連の資格を取得。やる気や実力が買われたのだろう、1967年県内業界老舗の桃原農園へ入社が決まった。

 「裏方の仕事を始めて20年が過ぎた頃、フラワーショップ勤務になりました。花に直接関われることがうれしかった。ホテルや式場に出掛けて、結婚式の花を飾り付けていました」と振り返った。フラワーアレンジの専門家として、注目を浴びるようになった。

 「男性はほとんどいない世界でした。花を仕入れる市場は、競り台に上がるのも買い手も女性ばかり。女性同士が闘う場所、といった雰囲気でしたよ」

 だが、大量の花を運び式場の大きな花器に生けるフラワーアレンジは力仕事も伴う。「男性向きの職業だと思いますし、女性が頑張っているのだから、男も挑戦しなくては!」と日々奮闘していたようだ。

 稔さんはJFTD(一般社団法人日本生花通信配達協会)の加盟店代表兼沖縄地区代表として全国会議に出席し、沖縄の花事情を報告することもあった。

 「当時正月・母の日・卒業式が、沖縄の花屋の三大行事だった状況を説明しました。本土では卒業式に花を贈る習慣は少なかったようですよ」 

 稔さんの発言によって、他府県の加盟店が卒業式向けのキャンペーンを行うなど、行動を起こすことになった。そのような貢献やまとめ役としての実績が認められ、JFTDから表彰された。加盟店同士での交流も図り、年齢を重ねても花を生ける先輩たちの元気な姿に触れ感動。稔さんは講師を務める折に、「花屋は70歳、80歳になってもできる仕事です」とスピーチする時期も。「今は自分がその年代になりました」と感慨深げな表情を見せた。

父の影響で花が身近に

 自宅の庭や部屋の中に常に花がある環境で育った娘の恵津子さんは、「もちろんお花が大好きです。学生時代には父の店でアルバイトをし、アレンジの勉強もしました」と、稔さんの影響を受けていたことがうかがえる。

 恵津子さんにとって稔さんは、子どもの頃怒られた記憶がない優しい父親。最も驚かされたのが、桃原農園退職後の2002年に花店を開く計画を聞いた時だという。

 「自分1人で決めたと思います。みんな反対でしたが、忙しい時期は協力しようと、家族全員で手伝っています。仕事熱心で、休みなしで働く父は誇りです」と恵津子さん。

 稔さんのお店「花広場」を訪ねるお客さまが、口コミで広がっていると実感することが、何よりうれしいそうだ。贈答花の注文客には報告として写真を撮って送る、スタンド花などに付ける宛名の札は稔さんが手書きするなど温かなサービスが、利用者の心に届いている。

花が彩る暮らし

 「父はアイデアマンで、アレンジ花を作るスピードがとにかく速い。まねできない程ですが、年齢を意識して無理はしないでほしい。頑固な面が出るとけんかになりますが、一緒に花屋を続けていきたい」と恵津子さん。父と娘お互いが、ビジネスパートナーとしての良い関係を築いている。

 花のある生活について、「飾っているだけで日々が豊かになります」と恵津子さん。稔さんは「花は会話しませんが、様子を見ながら愛情を注ぐと成長していく過程がかわいい」と語る。

 実年齢よりも若々しい印象で、笑顔がすてきな稔さんと恵津子さん。花との暮らしが、若さと健康を維持できる秘けつだと言えそうだ。

(饒波貴子)



プロフィール

ひが みのる
 1937年生まれ、大宜味村出身。1967年桃原農園に入社し裏方業務を経験後、1987年からフラワーショップ部門に異動。式場関連のフラワーアレンジを手掛ける。JFTD(一般社団法人日本生花通信配達協会)地区代表を務め、県内花店の活性化に貢献。1997年度、第14回「(社)JFTD鈴木雅晴賞」を受賞した。2002年の退職をきっかけに、花店「花広場」をオープン。県生花商協同組合の代表理事を2期務めるなど、活躍を続ける

あさと えつこ
 1965年生まれ、那覇市出身。学校卒業後保育士として勤務、結婚を機に専業主婦に。2004年から父・稔さん経営の花広場を手伝う。稔さんの影響もあり子どもの頃から花が好きで、学生時代は花店でアルバイトし、フラワーアレンジを学ぶなど花と関わってきた

花広場
浦添市伊祖2-20-5 パティオ浦城1F
☎:098-873-1187

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比嘉 稔さん 安里 恵津子さん
花と庭の手入れが大好きで、関連する仕事に就いた比嘉稔さん。2002年からは念願の花店経営を始め、娘の安里恵津子さんがサポート役だ。迎えてくれた2人の笑顔から、温かな人柄が伝わってきた=浦添市の花広場  
写真・村山望
比嘉 稔さん 安里 恵津子さん
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