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[No.1622]

  • (金)

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「表紙」2016年05月26日[No.1622]号

父娘日和

父娘日和 8



家族をつなぐ音とことば
琉球大学教授 工学博士 高良 富夫さん
たから まきさん
高良 美華さん

家族をつなぐ音とことば

 音声言語処理の専門家が出版した琉球語(沖縄の方言)の手引書として、注目を集めている「琉球ことばの科学 ―情報時代の琉球語探検―」。著者は琉球大学教授の高良富夫さん(64歳)で、テーマを長女のたからまきさん(27歳)と次女の美華さん(21歳)がイラストで表現し、父娘の共同作品となった。音とことば、琉球語の研究者である父の血を受け継ぎ、理数系科目が得意なまきさんと美華さんは、医師および医師の卵として日々勉強中だ。研究と表現で共同作品を生み出した3人から互いを尊敬し合う気持ちが伝わり、温かな家族の絆を感じた。



研究入門書出版 娘がサポート

 スマートフォンの普及で身近になった音声認識システム。声を文字変換し、質問に音声で答えるなど、話し言葉を聞き分けてくれる便利な機能で活用する人が増えている。富夫さんはそれらを含む音声言語の研究を、約40年に渡って続けてきた。

 「知能情報処理という科学分野で音声の合成や分析を行っていますが、スマホが持つ機能については1952年ごろから学会では論文発表がありました。60数年がたち、やっと日常生活で使えるようになったんです」と感慨深げだ。

 近年は琉球語の研究に力を入れ、「日本語と琉球語の翻訳音声出力システムを作り、琉球語特有の「っ」で始まる珍しい言葉についてヨーロッパの学会で発表しました」と、沖縄の言葉は研究価値が高いと語る。「コンピューターが琉球語をしゃべるシステム」を作った自身の研究過程や成果を、エッセー集と研究入門書として出版し、娘2人が挿絵を描いた。

 小・中学生のころ絵のコンテストで何度も受賞経験を持ち、簡単なアニメーションや絵本も作ったまきさんは、「科学の立場から音を考えることを父に教わってきましたので、挿絵となるイラストのイメージはすぐに湧きました。他の人は父の本の挿絵は描けないと思います」とほほ笑んだ。美華さんは「姉のようにスラスラ描けませんが、半数程度の挿絵を引き受けました」と、親子で力を合わせて出版がかなったと明かした。

物理を学び医学の道へ

 富夫さんから見たまきさんと美華さんは、素直にすくすくと育ちながらも努力家の顔を持つ娘。研修医のまきさんは、「小学生の時から、医師になる目標を持っていました。ボランティアで保育園に行った時に子どもたちと一緒にいるのが楽しかったので、小児科医として診察できたら」と語る。

 医学部在学中の美華さんは「4年生ですが、中・高校での教育環境や姉の医学部入学もあって悩まず進路を決めました。受験戦争を乗り越えた達成感と学びの経験を積み、医学の勉強は楽しいと実感しています」と声をはずませた。

 富夫さんから受けた影響は「医師も科学者ですし、父の指導で物理の勉強に励みました。西洋医学は物理を基本にする面があり、父の影響は大きい」とまきさん。

 2人にとって優しい父親の顔を持つ富夫さんだが、「高校では科学の典型ともいえる物理をしっかり学び、大学の受験科目として選択しなさいと伝えました。人類の到達点を学べる物理学を知った上で、医学の道に進んでほしかったのです」と、教育熱心な面をのぞかせた。物理に限らず、数学や英語の効率良い勉強方法も教え「塾を開校できるくらいの学習法の資料を作りました。でも特に力を入れるのは物理。だって僕も物理学科の学生でしたから」と笑った富夫さんは、優秀な2人の娘を誇りに思う。



支え合う親子

 「勉強はやり方次第。小さな成功を評価して、それを持続させると子どものやる気が育つと思う」と富夫さんが語ると、「子どもの立場で頑張りますが、両親の協力なしでは志望校を目指すことができない現実もあります。私たちを導き良い環境を与えてくれた両親に感謝します」と、まきさんと美華さんは気持ちを伝えた。

 2人が成人した現在、富夫さんは「科学に興味を持ってくれる子が増えるといい」と沖縄の子どもたちを思いながら2冊の本を出版し、体験型の講座や実験教室などを今後計画していけたらと検討中だ。

 今回取材中に琉球語の音声合成と翻訳機能の実験を見せていただき、興味を覚え未来の大きな可能性を感じた。音とことば、という身近なテーマを学びの入り口にすることを3人から教わり、親しめる物理学の楽しい世界が見えてきた。

(饒波貴子)



プロフィール

たから とみお
 1952年石垣生まれ、那覇育ち。鹿児島大学理学部物理学科卒業後、東京工業大学大学院総合理工学研究科で音声自動認識を研究。沖縄に戻って琉球大学工学部で琉球語の音声合成の研究に努め、1990年「沖縄研究奨励賞」を受賞。以降も琉球語を研究し、2014年に「音とことばの実験室」、2016年に「琉球ことばの科学 ―情報時代の琉球語探検―」を出版した。(共に琉球新報社刊)音とことばを科学の視点で分かりやすく解説し、言語学上重要な沖縄の方言について分析を続けている。

たから まき
 1989年生まれ、那覇市出身。琉球大学教育学部附属小学校・中学校、開邦高等学校卒業後、琉球大学へ進学。医学部を卒業し、現在研修医として勤務中。子ども好きで小児科医を目指している。幼児の言語獲得過程の脳の働きや心理面を研究したいという希望もある。

たから みか
 1995年生まれ、那覇市出身。石嶺小学校、昭和薬科大学附属中学校・高等学校卒業後に琉球大学医学部へ進学。アルバイトをしながら勉学に励む大学4年生で、休みにはボランティア活動や海外旅行を経験し視野を広げる。姉のまきさんと同じく医師を目指している。



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高良 富夫さんたから まきさん高良 美華さん
高良富夫さん(写真右)と長女のたからまきさん(写真左)、美華さん(写真中央)。2人が子どもの頃に作った音声生成模型や絵本、そして最新の音声実験画面と共に=那覇市内の自宅にて 
写真・村山望
高良 富夫さんたから まきさん高良 美華さん
まきさん、美華さんと愛犬のピッツ(2000年)
高良 富夫さんたから まきさん高良 美華さん
家族4人で初詣
高良 富夫さんたから まきさん高良 美華さん
子どもの日に海洋博公園へお出掛け(2000年)
高良 富夫さんたから まきさん高良 美華さん
科学の視点で沖縄の方言を分析した「琉球ことばの科学」(琉球新報社刊)
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