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[No.1971]

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「島ネタCHOSA班」2023年02月16日[No.1971]号



 那覇市壺屋にある国指定重要文化財・新垣家住宅。伝統建築技術が注ぎ込まれ た大きな屋敷は、陶工の住居兼工房として建てられました。敷地内にある登り窯「東 ヌ窯」の修繕作業が行われているとの情報を得て、調査員が現場を訪れました。東ヌ 窯ならではの、保存・維持方法と関係者の方々の熱意をお届けします。

新垣家住宅・東ヌ窯「焼き締め修繕」をリポート!

 赤瓦と石垣が立派な新垣家 住宅。敷地内には、大規模な「東 ヌ窯」があるのも特徴ですね。 「房」と呼ばれる作品を焼くた めの部屋が9つ連なった、縦 に長い構造です。

 東ヌ窯は1974年まで稼 働していました。稼働停止の 理由は、薪を燃やすことで出 る黒煙が近隣で問題化したこ とでした。 02 年に屋敷全体が 国の文化財指定を受けますが、 窯は 09 年に老朽化や大雨の影 響で全壊してしまいます。窯 が修復されたのは 15 年。かつ ての形状を復元するため、資 料や記録を基にした丹念な作 業が施されました。

 修復後も文化財には保存や 維持が不可欠。東ヌ窯の場合 は特に大掛かりで、内部に火 入れする「焼き締め修繕」が必 要です。

使える状態で復元

 1月下旬、修繕の様子を特 別に見学できることになった 調査員。東ヌ窯を訪れると、ガ スバーナーが火口(ひぐち= 薪をくべるための窯前面の穴) にセットされ、ジューっと音 を立てていました。ガスボン ベを何本も使いながら、3日 間夜通しで火入れしているそ うです(!)。窯内の温度は場 所によって、最終的に1200 度台まで上がると、作業を行 っていた壺屋東ヌ窯保存会の 事務局長・新垣寛(ゆたか) さんが教えてくれました。

 「火口から3房目ま では、実際に焼き物が 焼ける状態で復元さ れているんです」と話 すのは、那覇市立壺屋 焼物博物館の又吉幸 嗣さん。そう、実は東 ヌ窯、現在も使えるん です。焼き締めは、窯 内部の湿気を飛ばす などの役割を持った 作業。窯の強度を高 め、使用可能な状態を 維持するために、定期 的に行われています。

 窯としての機能が 残されているのは、修 復計画が立てられた 当時の新垣家当主、故・新垣 徹児さんの意向があったから。 「徹児さんは『東ヌ窯を活用し たい』という思いが強くあった よね」と寛さんは振り返りま す。国指定重要文化財の建造 物で、現在も使用できる、とい う例はほとんどないそうです。

将来の活用に向けて

 「登り窯は土造りなんで使え ば使うほど、崩れます。昔の職 人からすれば道具の一つ。壊 れたら直せばいいや、という 感覚だったのでしょう」

 復元作業から東ヌ窯に関わ り、窯本体の成形も行った寛 さん。登り窯とは本来、定期的 に造り直されていたものだと 話します。しかし、文化財であ る現在の東ヌ窯を簡単に造り 直すことはできません。そこ で、文化財としての価値と登 り窯としての機能、両方を維 持することが求められるので すが、これは先人たちも経験 しなかったこと。又吉さんも 「今の東ヌ窯にはどのような手 法が適切なのか、手探りでや ってる状態です」と話します。

 制限や困難も多い仕事です が、それでも二人や地域の関 係者たちがエネルギーを注い でいるのは、いつかまた、伝統 ある東ヌ窯で焼き物を作りた い、という夢があるから。関係 機関や近隣住民との調整など、 課題は多いのですが、教育や 地域活動の一貫として活用方 法を見いだしたいそうです。

 「将来『ここで焼いてみま しょう』ってタイミングが来 ると思うので、今は焼き締め 修繕をがんばっています」。寛 さんは笑顔で教えてくれまし た。

 窯に再び火が入り、焼き物 が焼かれる光景を多くの人と 共有したいですね。今後の東 ヌ窯の活用について、何か動 きがあれば、また本コーナー でお伝えします。





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新垣家住宅・東ヌ窯「焼き締め修繕」をリポート!
2009年に全壊してしまった時の東ヌ窯
(撮影:那覇市文化財課)
(提供:那覇市立壺屋焼物博物館)
新垣家住宅・東ヌ窯「焼き締め修繕」をリポート!
焼き締め修繕中の窯を火口側から
新垣家住宅・東ヌ窯「焼き締め修繕」をリポート!
壺屋東ヌ窯保存会の 事務局長・新垣寛さん。 壺屋焼の窯元「新垣陶 苑」の陶工でもあり、登 り窯の知識に精通して います
新垣家住宅・東ヌ窯「焼き締め修繕」をリポート!
那覇市立壺屋焼物 博物館の学芸員・ 又吉幸嗣さん
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