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[No.2011]

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「表紙」2023年11月23日[No.2011]号

ダイナミックな書アートの世界
書浪人 善隆さん

画と書で魅せる新しいアート

 石垣市出身の書アート作家、書浪人善隆さん(55)の企画展「朧々展(OBOROBORO)~ 十六夜に誘う龍の晦(つごもり)~」が、恩納村のザ・ムーンビーチ ミュージアム リゾート(旧名称ホテルムーンビーチ)で開催されている。来年の干支である龍が、いか にして月(つき=LUCKY)をつかむのかをテーマに、書や水墨画、コラボ作品などを展 示し、ギャラリー全体で巨大な龍を表現している。

 学生時代は電子工学を 専攻し、ロボットを作って いたという善隆さん。その 後、専門学校の講師を経 て、故郷の石垣島で市役 所に勤務。あるとき「海人 Tシャツ」の社長に誘われ デザイナーの道へ。Tシャツ に描かれた「海人」の筆文 字に魅せられた。

 「基本的に書というもの を専門で学んだことはあ りません。全て独学です」 と話す善隆さん。本来、書 の世界ではご法度の二度 書きもあたりまえに行 う。筆も選ばず、ときには アダンの葉やススキ、ガジュ マルの根なども使用して 自由に文字を書く。そう しているうちに、優れた感 性を持っていたとされる宮 本武蔵の「素浪人」にちな み「書浪人」として、アート としての書のスタイルを確 立していった。

心象風景を音に

 展示タイトルになってい る「朧々(おぼろぼろ)」と は善隆さんの造語。水面 で揺れている月の様子を 表したオノマトペだ。

 「僕が生まれ育った石垣 島では毎年、中秋の名月 の時期になると、両親に 連れられて古典民謡『とぅ ばらーま』を聞きながら 涼をとる文化があったん です」と善隆さんは振り 返る。

 「何か転機が訪れると きや、癒やしを求めている ときにいつも水面に映る 月を眺めていたな、とふと 思ったんです。そういう心 象風景に音を付けるとし たら『朧々』。一度聞いたら 誰もがその情景を思い浮 かべられるのが、オノマトペ の力だと思っています」

龍の体内に入る

 今回の展示のテーマで ある龍と月は、それぞれ 展示場所であるザ・ムーン ビーチ ミュージアムリゾー トと、来年の干支である 辰から連想。運を意味す る「ツキ」に手を伸ばした 龍を描いた新作数十点を 描き下ろした。

 「来年、夢や目標に向 かって何をつかみたいと思 う人は『月をつかんでいる 龍』を、まだ目標がないけ ど、何かをつかみたいと 思っている人は『月をつか もうと手を伸ばしている 龍』を選んでください」と 善隆さん。同じつかみ方を している龍の画がないのは、 見た人が「自分が月をつか むんだったらこういう感じ かも」と共感できる一枚を 見つけられるように、とい う思いが込められている。

 「入り口を尻尾として、 ギャラリー全体を龍の体 内としています」と善隆さ んが言うように、サンセッ トの時間帯になると画全 体に夕日が当たり、ほんの 数分間だけ光り輝く「赤 龍」・「青龍」の画をはじ め、壁面から窓ガラスに至 るまで龍の要素であふれて いる。その他にも、スマホな どの電子端末の白黒反 転機能を使って鑑賞する 「NEW OPPOSITE ART」 や、「知名オーディオ」とデ ザインコラボしたアップサ イクルスピーカーによる、 音を取り入れた演出も見 どころだ。

 「展示会は生き物なの で、期間中少しずつ展示 内容も変わってきます。昼 間、夜、そして夕方。いろん な時間で楽しめる展示と なっていますよ」と善隆さ んはほほ笑んだ。

 書アートという新しい ジャンルを開拓する善隆 さんの今後の活動に期待 したい。 

(元澤 一樹)



書浪人善隆「朧々(OBOROBORO)展~十六夜に誘う龍の晦~」 会期:~2024年1月7日(日)
会場:ザ・ムーンビーチ ミュージアムリゾート1階シーサイドギャラリー
時間:10:00~18:00
料金:無料



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書浪人 善隆さん
「赤龍」と「青龍」の作品を背景にほほ笑む書浪人善隆 さん。我流で開拓した書は「書アート」と呼ばれ、日本テ レビの番組「マネーの虎」のタイトルを揮毫(きごう)す るなど、国内外で活躍の幅を広げている。現在、ザ・ ムーンビーチ ミュージアムリゾート(旧名称ホテルムーン ビーチ)で開催中の企画展「朧々(OBOROBORO)展」 では数十点に及ぶ書画を描き下ろした。=ザ・ムーン ビーチ ミュージアムリゾート
写真・村山 望
書浪人 善隆さん
開催にあたり行われたライブパフォー マンスの一幕
書浪人 善隆さん
月をつかむ龍の腕を描いた 「朧々(おぼろぼろ)」
書浪人 善隆さん
野草やガジュマルの根などを使って 描くことも
書浪人 善隆さん
電子端末の白黒反転機能を使って鑑 賞する「NEW OPPOSITE ART」から「ガ ラパゴスアシカ」
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