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[No.1715]

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「表紙」2018年03月08日[No.1715]号

ザ夫婦

ザ・夫婦(み〜とぅ) 48


そば屋「しん里」 店主 新里 敏光さん
新里 民子さん

味にこだわる料理人のそば屋 

 糸満市座波の畑近くに隠れ家風にたたずむ、そば屋「しん里」。長年、和食料理人として腕を振るってきた店主の新里敏光さん(62)が沖縄そばの他、天ぷら定食や海鮮丼など本格的な和食メニューを提供する。社交的な性格と笑顔でお客さまを歓迎するのは、妻の民子さん(60)。おいしさと居心地の良さをつくり出す夫婦の魅力がにじみ出るこの店は、連日客足が絶えず、市外から訪ねる人も多い。一度食べたらまた来たいと思わせる店だ。



夫の味を多くの人へ

 「故郷を思い、『あぐにそば』というメニューを作りました」と照れくさそうに笑う敏光さん。

 生まれ育った粟国島の風景写真が貼られている店内からは、風光明媚(めいび)な故郷の島を誇らしく思う敏光さんの思いが伝わってくる。

 敏光さんが若かりし頃、粟国島では料理人を志す男性が多かったという。また高校に進学するためには、島を出なければいけないという現実も。

 「製麺所を営んでいた那覇の親戚にお世話になりながら、高校に通いました。製麺所でアルバイトをしたことで、飲食業界に携わりたいと思うようになったんです。料理人として活躍している粟国島の先輩も多く、自然にその道を歩んできた感覚もあります。当時、県内の有名料亭の料理長は、粟国島出身者が多かったんですよ」

 大学卒業後、社会人になった敏光さんの最初の就職先は料亭だった。見習いから始めて経験を積み、技術と知識を深めようと調理師専門学校の和食コースに通うことも決めた。生涯料理人という人生を、迷うことなく選択していったのだ。

学生時代の恋実り結婚

 友達の紹介をきっかけに、学生時代から交際していた敏光さんと民子さん。敏光さんが大学卒業間近の22歳の時に結婚。民子さんは21歳だった。

 「私は高校を卒業して会社勤めをしていましたが、両親が厳しくて自由に外出することができなかったんです。なので家を出たくて結婚しました」と笑う民子さん。アルバイト収入があり就職先も決まった敏光さんと家庭を築くことに不安はなく、幸せに向かって突き進んでいった。

 「交際中は帰宅時間が遅いと家に鍵をかけられて中に入れず、弟に助けてもらっていたんですよ。でも結婚したいと報告すると、みんな祝福してくれました」と民子さんは振り返る。

 結婚後の民子さんは三人の子どもを授かって育児に励み、時間があるとパートタイムで働いた。そして妻として常に敏光さんをサポート。料理人としての腕磨きで静岡県のホテルに修業に行く敏光さんを後押しし、2001年の居酒屋開店時には接客担当として店に立った。

 「飲食店での勤務経験がなく注文の取り方も分かりませんでしたが、口数少なくこわもての夫をフォローしました(笑)。味にこだわり丁寧に調理する夫の料理は出来上がるまでに時間がかかるので、お客さまにも気を遣っています」

 時には待ち時間が長いと怒る人もいるそうだが、「おいしいと言って残さずに食べてくださったり、再び店を訪ねてもらえたりするのが、何よりうれしい」と二人は声をそろえる。

夫の天ぷらは自慢

 居酒屋経営中はとにかく忙しかったという二人。家族で過ごす時間などを見つめ直し、7年たって閉店を決めた。敏光さんは糸満市の自宅の駐車場スペースを大工さながらの作業でリニューアルし、07年にそば屋「しん里」をオープン。住居兼店舗という新たな環境を作った。今では居酒屋時代の顧客が食べに来たり、口コミでおいしい評判が広がるなどして、営業時間内に売り切れる日もあるそうだ。

 「スペースを広くして、夕食を出す店にしたい気持ちはあります」と敏光さん。

 民子さんは「夫が作る天ぷらは味も質も自慢です。もっと多くの人に食べていただきたいと思っています」と意気込む。

 還暦を過ぎ、お互いの健康を思い合う面も。「健康第一で一緒にがんばっていきます」と敏光さんが語ると、「忙しくしないでゆっくりペースでお店を続けていきたいですね」と民子さん。

 10代のころに出会い、夫婦になって40年を数える二人は、いつでも手を取り合って前へと向かっている。 

(饒波貴子)



円満の秘訣は?

敏光さん: 束縛しないこと。普段はお店の都合に合わせて一生懸命がんばってくれていますから、やりたい事をやり行きたい場所に行ってほしい。けんかも夫婦にとって悪いことではないはずですよ(笑)。 民子さん: 我慢するタイプではないので、思った事は秘めずに言葉で伝えています。夫が怒っても言いたい事を言うのが、私たちにとっては良いと思っています。

プロフィル

しんざと・としみつ: 1955年生まれ、粟国島出身。中学校卒業まで粟国島で過ごし、高校・大学進学のために島を離れ沖縄本島で暮らす。大学を出て料亭で働いた後に専門学校で本格的に和食を学び、2001年に那覇市で居酒屋を開店。07年には糸満市座波に「しん里」を開いた

しんざと・たみこ: 1957年生まれ、八重瀬町出身。高校卒業後に会社員になり、78年の結婚を機に退職。家事と育児に励んでいたが、夫・敏光さんが始めた居酒屋を手伝うように。「しん里」開店後も二人三脚で店を切り盛りしている

そば屋「しん里」
糸満市座波1872-6
☎:098-992-7423
営業時間:11時30分〜14時30分
定休日:月曜・火曜

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新里 敏光さん 新里 民子さん
結婚40周年を迎える、新里敏光さんと民子さん。味にこだわる寡黙な料理人の敏光さんと接客好きな民子さんは、飲食店経営のパートナーとしても絶妙なコンビネーションを発揮している=そば屋「しん里」にて(糸満市座波)
写真・村山望
新里 敏光さん 新里 民子さん
敏光さんの還暦記念に家族写真を撮影=2016年
新里 敏光さん 新里 民子さん
料理人としての腕を磨くため、静岡県のホテルで修業していた頃の敏光さん=1995年
新里 敏光さん 新里 民子さん
あぐーのしゃぶ肉入り・野菜たっぷりの「あぐにそば」(580円/手前)と、ニンニク風味の豚ミンチや厚揚げ・青菜を載せた「しん里そば」(700円)
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