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[No.1712]

  • (金)

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「表紙」2018年02月15日[No.1712]号

ザ夫婦

ザ・夫婦(み〜とぅ) 45


シェフ 比嘉 大陸さん
ガラス作家 比嘉奈津子さん

二人の思い 生み出す空間

 シェフとして活躍する比嘉大陸さん(35)とガラス作家の奈津子さん(36)夫婦。もともと高校の同級生だった二人は、関東での修業時代に再会し、2012年に結婚した。お互い無我夢中で走り抜けた修業時代を経て、独立。二人の夢だった飲食が楽しめる店を地元、名護市にオープンした。現在、大陸さんがオーナーシェフを務めるレストランには奈津子さんの作品があふれかえっている。支え合い、励まし合いながら、シェフとして、ガラス作家として、もの作りにまい進している。



修業時代に再会し意気投合

 料理とガラスが融合したユニークなレストラン「ENTRO SOUP & TAPAS(エントロ・スープ&タパス)」。シェフの大陸さんが作るだしにこだわった具だくさんスープや洋食のタパス(小皿料理)を求めて地元の主婦から学生まで、さまざまな人が訪れる。インテリアとガラスの器を担当するのは、近くで工房を営む妻、奈津子さん。広々とした店内には繊細なレース模様をガラスに配した「ベネチアンガラス」からポップなオブジェまで、奈津子さんの作品が並ぶ。

 ガラスと飲食を組み合わせた空間を作ることは二人の目標だった。「ガラスは敷居が高いというイメージを払拭(ふっしょく)したかった。飲食と絡めることで、実際に見て使って、身近に感じてほしい」。そんな思いを抱いていた奈津子さん。そんなときに現れたのが大陸さんだった。

 もともと高校の同級生だった二人。東京で料理の修業を始めた大陸さんは、同時期に関東で修業中だった奈津子さんと再会。意気投合し、共に飲食とガラスを楽しめる店に挑戦しようと決めた。

飲食とガラスの融合

 奈津子さんは高校卒業後、ガラス作家を目指して岡山県の大学に進学した。数々の工房や家具店勤務などを経て、神奈川県で現代ガラス界を代表する作家、伊藤賢治さんに師事。最高峰といわれるベネチアンガラスの技術などを徹底的に学んだ。

 一方、福岡県のインテリア専門学校を卒業した大陸さん。東京で数年間働いた後、今は亡き母の病を機に、帰沖した。女手一つで姉と大陸さんを育ててきた母の病院代を稼ぐために、焼き鳥店に勤務。興味本位で足を踏み入れた飲食業界だったが、やりがいを感じた。「自分が作ったものを食べたお客さんの笑顔を見るだけでうれしかった。そういう喜びを感じたことがなかった」と振り返る。30歳直前に独立を目指し上京。フレンチ・イタリアンのレストランで3年間基礎から腕を磨いた。

 再会後、大陸さんの幾度にわたるアプローチを経て友人関係から交際に発展した二人。結婚までの約1年間は密度の濃い日々だったという。

 修業に励む日々、お互いの存在が支えとなった。バイトと修業に追われる中、奈津子さんが体調を崩して倒れたこともあった。一番苦しかった時期、彼女を支えたのは大陸さんだった。「情けない話ができるのは彼だけだった。目的が一緒だったので、話しやすかった」と奈津子さんはほほ笑む。

周りの支援に感謝

 二人は2012年に結婚。13年12月に奈津子さんが工房「ENTRO glass studio(エントロ・グラス・スタジオ)」を設立、約半年後には大陸さんがレストラン「ENTRO SOUP & TAPAS」をオープン。夫婦が目指してきた飲食とガラスの融合した空間が生まれた。地産地消にこだわり、丁寧に下ごしらえをした大陸さんの料理と奈津子さんが手掛けるモダンで落ち着ける空間は地元の人たちに人気となった。奈津子さんの作品はインテリアだけでなく、器としても登場する。この場所で奈津子さんの作品に出会い、ガラスのある生活を楽しむ人たちも増えてきた。

 今年でレストランオープンから4年目。夫婦のコラボレーションの場は多くの人に支えられ、日々進化している。二人の心にあるのは家族や周りの人たちへの感謝の気持ちだ。「ここに来てから、多くの縁があり、支えてもらった。お互いつくることを通じ、還元していきたい」と奈津子さん。「まだまだ勉強不足」と謙遜する夫婦の向上心は尽きない。

(坂本永通子)



円満の秘訣は?

奈津子さん: 「ありがとう」と「ごめんなさい」を言うこと。
大陸さん: 同じです。離婚しない結婚生活が目標。一緒にいることによって仕事も共に頑張れる。だから「ありがとう」と「ごめんなさい」をしっかり言うことを大切にしている。

プロフィール

ひが・たいりく: 1982年静岡市生まれ。小学1年生から名護市で育つ。2000年名護高校卒業。02年九州デザイナー学院卒業。東京で就職後帰沖し、名護市の「やきとり大吉」に勤務。東京・銀座と門前仲町で計3年間修業を積み、料理を学ぶ。12年に奈津子さんと結婚。14年名護市に「ENTRO SOUP&TAPAS」をオープン

ひが・なつこ: 1982年名護市生まれ。2000年名護高校卒業。04年倉敷芸術科学大学工芸学科ガラスコース卒業。07年名護に「Blow glass studio」築炉。08年大阪府湯川家具入社。神奈川県の伊藤賢治氏に師事。13年名護にて「ENTRO glass studio」再設立。受賞歴多数

●ENTRO SOUP&TAPAS
 名護市為又1220-21 龍ハイツ1階
 ☎0980(59)6778
●ENTRO glass studio
 https://entro-glass.jimdo.com/

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比嘉 大陸さん 比嘉奈津子さん
奈津子さんの作品の前に並ぶ比嘉大陸さんと奈津子さん。二人の会話の掛け合いからも、仲のよさがうかがえる。仕事の相談もよくし合うという=名護市為又のレストラン「ENTRO SOUP & TAPAS(エントロ・スープ&タパス)」 
写真・村山望
比嘉 大陸さん 比嘉奈津子さん
関東で修業時代の二人。大陸さんが東京で修業を始めたことを機に再会した
比嘉 大陸さん 比嘉奈津子さん
照明でイメージが変わるという奈津子さん。細かく計算された空間づくりをしている
比嘉 大陸さん 比嘉奈津子さん
食材も地産池消を心掛けているという大陸さん。前菜やデザートなどのメニューには奈津子さんの器が使われる
比嘉 大陸さん 比嘉奈津子さん
奈津子さんが作ったベネチアンガラス。レースの繊細な模様をガラスで再現している
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