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[No.1670]

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「表紙」2017年04月27日[No.1670]号

ザ夫婦

ザ・夫婦(み〜とぅ) 4


きゆな牧場 喜友名 朝秀さん
喜友名 慶子さん

互いの夢を牧場で実現

 大宜味村津波できゆな牧場を営む喜友名朝秀さん(66)と慶子さん(65)夫妻。同牧場には約26頭の乳牛が放牧によってのびのびと暮らしている。「酪農教育ファーム」認定農家でもあり、酪農を通した教育にも取り組んでいる夫妻は、毎年国内外から約3000人の利用者を受け入れている。おおらかで、ゆったりと構えるタイプの朝秀さんと、行動派ですぐ実行に移す慶子さん。自然の中で穏やかな日々を過ごす2人は「けんかしながらも仲がいい」と口をそろえる。



酪農の魅力 伝えたい

 大宜味村津波の高台にあるきゆな牧場。喜友名朝秀さん、慶子さん夫妻は広大な敷地で乳牛やヤギ、イノシシ、ウサギ、ニワトリなどと暮らしている。この地でお互いの夢をかなえ、自分たちらしい暮らしを築いてきた。

 出会いは約40年前。東村の沖縄産業開発青年隊を経て、派米農業研修制度を利用し、アメリカで畜産を学んだ朝秀さんと、東京の設計事務所に勤務しながら専門学校で建築を学んだ慶子さん。同じころ沖縄に戻ってきた2人は出身地の嘉手納町の青年会で活動を共にした。

 慶子さんに引かれた理由を「強くて、たくましいところ。リーダーシップを発揮していた」とはにかむ朝秀さんに、「彼は大らかで心の広い人。夢があったし、歌も上手だった」と応える慶子さん。2人は、1年の交際を経て結婚した。

 転機は約30年前、結婚して10年が経ったころ。嘉手納町で父たちと養豚業を営んでいた朝秀さんと、設計事務所で働いていた慶子さんはやんばるで牧場を営むことを決意する。

 慶子さんは「都会での子育ては大変だった。残業してくたくたになって帰宅して育児をする生活。静かな広い所でゆっくり子育てをしたかった」、朝秀さんは「もともと、広い土地で畜産や農業をやりたいという夢があった」という思いを抱いており、夫婦の願いが重なった。

家族でやんばるに移住

 1987年に12頭の牛からきゆな牧場をスタート。多額の借金を抱えながらの出発だった。それでも「怖くはなかった。アメリカ研修から帰ってきてからは、やる気満々だったし、牧場を持ちたいという夢があったから」と朝秀さん。慶子さんも「むしろ何も知らないからこそ、何も考えなかった」と振り返る。

 5年後には、人や動物、環境にもやさしい牧場を目指し、放牧飼育に切り替えた。牛たちは無農薬の牧草を食べて、のびのびとストレスなく過ごしている。

 同じ職場でオンもオフも一緒だが、朝秀さんは「役割分担がはっきりしているからやりづらいこともない」と話す。朝秀さんは牛の管理全般を、慶子さんは経理や子牛の育成、環境管理、教育ファーム、ゲストハウスなどの管理などを手掛ける。97年には家族の役割分担や給料を定めた「家族経営協定」を県内で初めて結んだ農家としても知られる。子どもたちも働いた分だけ小遣いが与えられ、自主的に協力したという。

 99年には酪農を体験できる「教育ファーム」事業も開始。現在、県内外や海外から年間約3000人の利用者が訪れる。「いろいろな人と会えるのは楽しい。みんな子どもや兄弟みたいなもの」という朝秀さん。海外からの参加者にはアメリカ研修時代に習得した英語力を生かしコミュニケーションを図る。

牧場での経験 社会に還元

 次第に発展を遂げてきたきゆな牧場。その裏には慶子さんの行動力がある。「自然の中で子育てをして、子どもたちが素直にたくましく育ってくれたので、社会に還元していきたい。自然や動物との触れ合いは、子どもたちだけではなく大人にとっても心の勉強になる」と慶子さん。

 5月のゴールデンウイークには、酪農の魅力を体感できる「オープンファーム」を開催する。独立した5人の娘たちも県内外から戻り、牧場の牛乳を使った手作りアイスクリーム販売や、アロマ体験メニューなどを用意。それぞれの得意分野や資格を生かして家族でイベントを作り上げる予定だ。

 おおらかな笑顔で周りを明るくしてくれる朝秀さんと、新しいアイデアで牧場を引っ張っていく慶子さん。自分たちらしくマイペースで牧場を守っていく。

(坂本永通子)



円満の秘訣は?

喜友名朝秀さん: けんかもよくするけど、お互い言いたいことを言い合っているので、良いコミュニケーションになっていますね。

喜友名慶子さん: お父さんは外出するのが大好きなので、一緒に出掛ける機会が多いです。お父さんの定期的な通院もいつも一緒です(笑)。

プロフィール

きゆな・あさひで:  1950年嘉手納町生まれ。69年県立読谷高校卒業。東村の産業開発青年隊を修了後、派米農業研修で2年間学ぶ。帰沖後、嘉手納町で父親と養豚場を共同経営。87年に12頭の牛から妻の慶子さんときゆな牧場をスタート。妻・慶子さんとの間に5女。孫は3人。
きゆな・けいこ
 1951年嘉手納町生まれ。70年県立読谷高校卒業後、中央工学校(東京都北区)で建築を学びながら設計事務所に勤務。72年中央工学校卒業。2010年「農山漁村女性チャレンジ活動表彰」で優秀賞受賞。一級建築士

きゆな牧場 教育ファームの体験は予約制。
大宜味村津波1971-194 ☎0980-44-2170

  きゆな牧場オープンファーム
5月3日(水)〜5日(金)10時〜16時

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きゆなあさひでさん きゆなけいこさん
牛舎の前に並ぶ喜友名朝秀さんと慶子さん。ホルスタインやジャージー、ブラウンスイスの各種乳牛がこの牧場で暮らす。ここで搾った牛乳は甘味があり、濃厚で飲みやすいと評判だ=大宜味村津波のきゆな牧場
写真・村山 望
きゆなあさひでさん きゆなけいこさん
移住直後の家族写真。五女の美春さんが生まれる前
きゆなあさひでさん きゆなけいこさん
約20年前の写真。5人の娘、朝秀さんの母親とともに。音楽好き一家だ
きゆなあさひでさん きゆなけいこさん
昨年、夫婦で海辺に出掛けたときの写真
きゆなあさひでさん きゆなけいこさん
牛を牧草地に誘導する朝秀さんたち
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