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[No.1652]

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「表紙」2016年12月22日[No.1652]号

父娘日和

父娘日和 38


救急医・バイオリニスト 林 峰栄さん
県立開邦高校 学術探究科 1年生 林 みなみさん

才能という「ギフト」奏でる

 弓の毛が弦をこすり出し、勢いテンポを増していく―。音色が共鳴する「トルコ行進曲」の迫力。林峰栄(ほうえい)さん(48)とみなみさん(16)親子が久しぶりの競演を披露してくれた。峰栄さんは、5歳で始めたバイオリンをオーケストラの友人たちと演奏しながら続けてきた。「沖縄交響楽団」のコンサートマスターであり、全国でも珍しいフリーランスの救急医である。三女のみなみさんも5歳からバイオリンを始め、数々の受賞で才能を開花させている。「みなみには努力する才能があったと思う」と、峰栄さん。もらったギフト(才能)を十分使ってほしい、と父親として願っている。



バイオリン弾きは人種、医師は仕事

 12月、バイオリニスト林峰栄さんのスケジュールは過密だ。「大度室内楽団」のリハーサルや「台湾沖縄音楽祭」の本番、合同オーケストラや大学オーケストラへの賛助出演…。

 10年間沖縄交響楽団のコンサートマスターを務める峰栄さんの本職は救急医。3年前フリーランスに転向して以来ますますバイオリン弾きに比重が掛かった。「40年間弾いてきたバイオリンが根っこにある。今は、バイオリン弾きという人種が仕事に医者をやっている感覚」と、バイオリンあってのフリーランスと語る。

 峰栄さんは、小学4年生の時出身地の岡山市ジュニアオーケストラの団員になった。「バイオリンが好きだなと思ったのもスランプに陥ったのも中学2年。すでにバイオリンを弾くのが当たり前という意識でいた」

 バイオリンに魅せられた少年時代―。印象は繊細だが、関心事は器械体操などスポーツにも及んで好奇心は旺盛だったらしい。バイオリンを続けられたのは一緒に演奏する団員らの存在があったからだという。

 目指したのはバイオリンの道ではなく、内科医であった父と同じ職種で、当然のように医学の道に進んだ。

フリーランス救急医

 フリーランスといえど、峰栄さんは平日、県内4カ所の病院の救急外来を診る。研修医指導や心肺蘇生講習会など、期待される役割も大きい。「常に自身を試され、緊張感を解いていく面白さがある」と、救急医療のやりがいを語る。

 救急医を選んだのは、大学時代に„バックパッカー“だったからだという。世界の辺境を旅するうち、国際医療協力に進路を捉えた。そして国内で初めてアメリカ式の救急医療システムER(Emergency Room)を導入した県立中部病院で初期研修を果たすことになる。

 「救急医に就くも、夜勤が多い勤務体制。20年間自分だけでなく家族も犠牲にした」。当時あまり家にいない峰栄さんが出張で留守だと気づかずにいたと、みなみさんは笑う。

 「人がやっていないことをしてみたい。そろそろ„林峰栄の生き方“をしていいのかな」

 峰栄さんは、2014年県立南部医療センター・こども医療センターの部長職を最後に、組織を離れた。

「ギフト」を携えて

 峰栄さんの影響を受けて、みなみさんは5歳の時から琉球交響楽団のコンサートマスターを務める阿波根由紀さんに師事している。小学4年生でコンクール1位を受賞し、毎年受賞を重ねる。手を携えてくれたのは母親のひな子さん。「小さいころからずっとレッスンの送り迎えやピアノ伴奏をしてくれているのはお母さん」

 ひな子さんの支えもあって、県代表として全国大会の舞台で演奏する実力派のみなみさんだが、「バイオリンは父のように趣味の領域で弾き続けるのか、専門にするのかはまだ分からない」と、将来像をはっきり描いてはいない。五嶋みどりの弾くチャイコフスキーがすごいと、瞳を輝かせるみなみさん。進学高校で学業とバイオリンの修練の両立が厳しいことも知っている。

 「子どもたちには好きな道を選んでほしい。みなみは努力する才能があって今がある。才能とは贈り物。もらったギフトをちゃんと使ってほしい」と、将来に期待を寄せる峰栄さん。

 年が明けると、みなみさんにはウィーンでの短期研修が待っている。「今弾いているのは、ウィーンに持っていくためのチャイコフスキー。大好きなこの曲を高校で完璧に弾けるようになれたらうれしい」。ウィーンへは峰栄さんからもらったギフトを携えていくことだろう。

(伊芸久子)



プロフィール

はやし ほうえい
 1968年岡山市生まれ。5歳からバイオリンを始め、岡山市ジュニアオーケストラ、岡山大学交響楽団を経て、現在は沖縄交響楽団コンサートマスター。1993年岡山大学医学部卒業。内地での勤務を経て2005年県立南部医療センター・こども医療センター救急部の立ち上げに参画。2014年フリーランスの救急医となり、県内のいろいろな病院のERで活動する。バイオリニストとしてディアマンテス、Kiroro、BEGIN、知念里奈、南こうせつらと共演

はやし みなみ
 2000年姫路市生まれ。5歳から阿波根由紀さんに師事しバイオリンを始める。2010年(小4)第43回新報音楽コンクール小学校高学年の部第1位、2012年(小6)全日本ジュニアクラシック音楽コンクール全国大会奨励賞など受賞を重ねる。2015年(中3)第48回新報音楽コンクール中学校の部第1位および特賞を受賞し、翌年「交流の響き2016」(ミューザ川崎 神奈川県)に県代表で出演。2017年1月5日より「県グローバル・リーダー育成海外短期研修事業」でウィーン研修予定

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林峰栄さん 林 みなみさん
「トルコ行進曲」を競演する林峰栄さん、みなみさん親子。「父からは先生の指導と違う面からアドバイスを受ける」とみなみさん。「楽譜は作曲家の表現、文学の読書同様で。テクニカルなことより音楽をどう作るかをアドバイスする」と峰栄さん=てだこホール練習室
写真・村山望
林峰栄さん 林 みなみさん
「交流の響き2016」県代表として演奏するみなみさん 2016年9月ミューザ川崎シンフォニーホール(神奈川県)
林峰栄さん 林 みなみさん
浦添市音楽祭で初競演 2013年浦添市てだこホール
林峰栄さん 林 みなみさん
研修医を指導する峰栄さん
林峰栄さん 林 みなみさん
沖縄交響楽団創立60周年記念演奏会であいさつする峰栄さん 2016年10月浦添市てだこホール
林峰栄さん 林 みなみさん
林さん一家。双子の長女と次女はそれぞれアメリカ、中国へ留学中。2015年アメリカ家族旅行
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