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[No.1643]

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「表紙」2016年10月20日[No.1643]号

父娘日和

父娘日和 29


沖縄大学 客員教授 新城 俊昭さん
パーソナルスタイリスト 新城 貴和子さん

「平和を貴ぶ心」を娘に

 琉球史と沖縄の現代史を学びながら、教育現場で指導を続ける新城俊昭さん(66)。平和教育の重要性も訴え、若い世代に沖縄戦の実相を伝える最新著書「戦後100年へのメッセージ 2045年のあなたへ」を、「何を学び、何を教訓とするか」というコンセプトでまとめた。沖縄戦の記録を分かりやすく解説した学習本だ。スタイリストとして活動する娘の新城貴和子さん(29)は、「沖縄の服飾文化では戦時中の服について学ぶので、歴史を研究する父とのつながりを感じます」と話す。家族での外出は遺跡巡りが多いという新城父娘の絆は、「歴史と平和」で結ばれている。



歴史から平和を学ぶ

 1968年の高校総体で、陸上選手として広島県に遠征した新城俊昭さん。交流を持った学生に、琉球史と沖縄の現代史を説明できない自分に気付いた。

 「平和を願う彼らは、被爆の悲しみを訴えるボランティア活動をしていました。でも私は復帰を控えた沖縄について伝えられず、日本のことや祖国という意味すら理解していなかったんです」

 現実と直面した俊昭さんは故郷の歴史が知りたいと、沖縄に向き合うことを決意。その方法として、幼い頃から抱いていた歴史教師になる思いを胸に、行動に移したそうだ。東京の大学に進み、本土から見た沖縄を体感した。

 「図書館や古本屋で琉球と沖縄に関する本を集めました。独学するしかなかったんです」

 当時の俊昭さんは日々勉学に励みながら、体験学習の重要性も思い知った。

 「関東の古墳を見学した時に、教科書でつかんだイメージと実物が全く違うと知りました。沖縄に帰ったら戦跡を訪ね身近な人に話を聞いて、歴史の本質を追求しよう。沖縄戦の事実を掘り起こしながら、子どもたちへ向けた歴史教育と平和教育に力を入れたい」という志を高く掲げた。

 1974年その目標をかなえ、歴史教師に。希望して那覇を離れ国頭村3年、八重山地区6年、宮古地区で3年暮らし、現地の歴史を研究しながら生徒を指導した。

 「妻・ひとみと一緒に平和教育にも力を入れました。娘が生まれた時、„貴い平和の子“と妻が名付けたんです」

 新城夫婦の信念が、娘・貴和子さんの名に込められた。

沖縄の服飾文化に注目

 「子どものいる家族が行くのは公園や遊園地。でも私が連れていってもらえるのは、遺跡や戦跡でした」と貴和子さん。

 沖縄の歴史を感じる場所を両親と共に巡り、父の説明に耳を傾けていたという。

 「歴史への興味は自然にわきました。父の影響は大きくて、教員を目指した時期もあります。でも私がテーマに選んだのは服。生活に密着した衣食住の衣の歴史を学び、現代の視点で発信するのが楽しいんです」

 学生時代に中国の砂漠緑化活動に参加し、パーソナルスタイリストを目指して沖縄と東京の学校を行き来した貴和子さんは、行動力あふれる女性。

 「大学卒業後にモデルの仕事を始め、ミス・ユニバース沖縄大会に出場しました。良い経験をしましたが、着たい服と着せられる服とのギャップを感じ、その調整ができるパーソナルスタイリストになろうと決意しました」

歴史を知り目標掲げる

 貴和子さんの職業であるパーソナルスタイリストとは、個性を引き立てるスタイリングを提案する役割で、依頼者のTPOに合わせて服を選び、着こなしや見せ方をアドバイスする。会社経営者やアーティストからの依頼を既に受けており、今後さらにニーズが高まりそうだ。人との交流、洋服店の情報収集が貴和子さんのライフワークになっている。

 「服を変えると表情が生き生きし、自信になります。依頼者の新しい印象をつくり出すことに、やりがいを感じます!」

 雇用改善に取り組む県の活動「グッジョブ運動」にも関わり、「服育」講師として中・高校生に接している貴和子さん。

 「いろんな服を着てもらって説明し、合う服をアドバイスします。チャンプルー文化の中の服飾文化を広め、観光客にもアピールしたい」と夢は広がる。

 俊昭さんは「琉球・沖縄史を学校教育の中に定着させる」、「気楽に沖縄を学ぶテキストを作る」という2点が目標だ。

 歴史を学び続ける新城父娘は、教育と服飾というそれぞれの分野で道を切り開き、沖縄を愛しながら平和を願う。

(饒波貴子)



プロフィール

あらしろ としあき
 1950年生まれ、本部町出身。高校時代、陸上競技の選手として高校総体広島県大会に出場。交流を持った他県の学生に沖縄のことを説明できない自分に気付き、歴史を学ぼうと決意。立正大学文学部史学科を卒業し、1974年に歴史教師になり琉球・沖縄史教育、平和教育に力を尽くした。2011年高校教師定年後は大学客員教授、沖縄歴史教育研究会顧問として指導を続け、次世代の育成や歴史関連本の制作に取り組んでいる。「戦後100年へのメッセージ 2045年のあなたへ」(沖縄時事出版刊)、「高等学校 琉球・沖縄史」(編集工房東洋企画刊)他著書多数

あらしろ きわこ
 1987年生まれ、那覇市出身。琉大附属小・中学校、陽明高校卒業後に聖徳大学へ進学し卒業。2012年度ミス・ユニバース沖縄大会で、トヨタカローラ賞を受賞。パーソナルスタイリスト、服育マナー講師、モデルとして多方面で活躍中。テレビ、ラジオなどメディア出演も多数

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新城俊昭さん 新城貴和子さん
歴史と平和の教育者・新城俊昭さんと貴和子さん親子。俊昭さんは庭の手入れが好きで、クロキ(リュウキュウコクタン)やブーゲンビリアなどの花木が庭で生き生きと育っている。モデル活動もする貴和子さんは、笑顔もポーズも美しい=宜野湾市の自宅にて 
写真・村山 望
新城俊昭さん 新城貴和子さん
嘉数高台公園で撮影した家族写真=2000年
新城俊昭さん 新城貴和子さん
モデル活動時の貴和子さん=2014年
新城俊昭さん 新城貴和子さん
中学校でマナー講習会の講師を務める貴和子さん=2015年
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