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[No.1627]

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「表紙」2016年06月30日[No.1627]号

父娘日和

父娘日和 13



沖縄県剣道連盟顧問 剣道 教士 七段 大城 武則さん
剣道六段 大城 鶴香(たずか)さん

剣を交えて つながり作る

 那覇市古島の興南高校。校内の剣道場に、パシッ、パシッと竹刀の音が鋭く響く。真剣な表情で竹刀を構える部員たちを、大城武則さん(77)が指導する。武則さんは、1964年に体育教師として興南高校に赴任して以来、34年にわたり剣道部の監督を務め、数多くの優秀な選手を育成してきた。中でも、1987年の海邦国体において、沖縄の高校生たちを全国初優勝に導いたのは輝かしい実績だ。父の指導を受けて育ち、今では剣道六段の腕前を誇る娘・大城鶴香さん(42)は「父の生徒を育てる指導力は1番。剣の腕もまだまだ父にはかないません」と頬を引き締める。



後進の指導に打ち込む父

 大城武則さんが剣道に出合ったのは、那覇中学の3年生だった時。クラス担任でもあった理科の教師から手ほどきを受け、一気にのめり込んだ。

 那覇高校の剣道部で腕を磨き、剣の道をさらに究めようと日本体育大学に進学。当時の沖縄では、剣道で体育大学に進学するのは珍しかったという。

 大学では、剣道部で中堅や副将として活躍する傍ら、教員免許を取得した。帰沖後、糸満市の三和中学で1年間の勤務を経て、25歳の時に興南高校に赴任。以来34年間、同校剣道部の顧問として生徒を指導し続けた。

 教員を定年退職した後も、2009年〜14年には沖縄県剣道連盟の会長を務め、複数の高校へ足を運ぶなど後進への指導を惜しまない。

県高校生を全国一に導く

 普段は優しく穏やかな紳士といった印象の武則さん。しかし、竹刀を握るやいなや、表情が一変。ピシッと背筋の伸びた姿勢、機敏な動作に驚かされる。教員時代は厳しい指導で知られ、周囲から恐れられていたこともあったそうだ。

 「父の指導力は1番だと思います。今、県の剣道界で活躍している人は父の教え子が多いですね」と鶴香さん。

 武則さんの監督としての力量が最大限に発揮されたのが、87年の海邦国体だ。

 大会のキャッチコピー「きらめく太陽 ひろがる友情」を考案したのは、実は武則さんの妻・香代子さん(71)。一般公募から香代子さんの作品が最優秀賞に選ばれたことに触発され、「絶対に優勝してやろう」と闘志を燃やした。

 武則さんは、海邦国体に向けて長期計画を練り、中学生の時から目をつけた選手を5年がかりで育成。沖縄初の剣道部の寮も作り、朝から晩まで選手たちを徹底的に鍛え上げた。

 特訓の甲斐(かい)あって、大会本番では見事全国初優勝。「鍛えれば結果が出るというのは本当なんだなあ」と優勝の喜びをかみしめたという。

娘の成長を見守る

 鶴香さんも、武則さんを師と仰ぐ剣士の1人。幼い頃は、2人の兄にくっついて剣道を習った。松島中学では剣道部に所属し、中体連で優勝。興南高校に入学後は、全力で剣道に打ち込み、4つの県大会で個人・団体優勝を飾った。

 高校卒業後に進んだ沖縄国際大学では剣道部に入らず、そのまま一般企業に就職。やがて子育てが始まり、少し剣道から遠ざかってしまったと話す鶴香さん。

 再び本格的に竹刀を握り始めたのは、鶴香さんの次女・愛莉さん(15)が小学3年生で道場に通い始めた時。「鶴香は娘と一緒に全国大会に出場したこともあります」と武則さんは頬を緩める。昨年の11月には剣道六段にも合格し、ブランクにもかかわらず腕は健在だ。

 「娘は稽古の時は必ず私に立ち向かってくる」と武則さん。「いい動きをしているが、打つチャンスをもっと磨くのが大事」との父のアドバイスに、娘は「私はそれがなかなかつかめない。まだまだ父にはかないません」と頭を垂れる。「父の指導は、言葉数は少ないながらも、言葉に重みがあります。その言葉を自分なりに考え、学んでいくといった感じですね」

 「剣道では『交剣知愛(こうけんちあい)』という言葉があります。剣を交えることで人間的なつながりができるという意味です。若いころ一緒に稽古した仲間とのつながりは一生続きますよ」と武則さん。

 鶴香さんも「剣道をやっていてよかったと思うのは、先輩や後輩が声を掛けてくれるところ。今も『女子剣』という女性剣士の集まりに快く入れてもらって、楽しく稽古することができ感謝しています」と笑う。

 来る8月21日、宮崎県で開催される国体の九州ブロック大会の成年女子の部への出場も決まった鶴香さん。「これからも7段が取れるよう精進を続けていきたい」と抱負を語る。

 次の目標に向け歩み続ける娘の成長を、武則さんは今日も見守っている。

(日平勝也)



プロフィール

おおしろ・たけのり
 1939年生まれ。中学時代に剣道を始め、那覇高校、日本体育大学の剣道部で活躍。64年に体育教師として興南高校に赴任、以後34年間にわたり剣道部監督。87年の海邦国体では、少年の部で沖縄県を初の剣道競技全国大会優勝に導いた実績を持つ。2009年〜14年、沖縄県剣道連盟の会長。現在も同連盟の顧問を務め、後進の指導にいそしんでいる。剣道 教士 七段、居合道 錬士 五段

おおしろ・たずか
 1974年生まれ。幼い頃から、2人の兄と共に剣道に親しむ。松島中学では剣道部に所属し中体連で優勝、興南高校では4つの県大会で個人・団体優勝を成し遂げる。沖縄国際大学卒業後は一般企業に就職。子育ても始まり剣道から少し遠ざかっていたが、次女が道場に通い始めたことを機に本格的に剣道を再開。昨年11月、剣道六段に合格



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大城 武則さん 大城 鶴香さん
興南高校の剣道場で、竹刀を手に父娘で並ぶ大城武則さん、大城鶴香さん。かつて同校剣道部監督を務めた武則さんは、今でも時間があれば部員を指導するという=那覇市古島 
写真・村山望
大城 武則さん 大城 鶴香さん
1987年、剣道競技で初の全国大会優勝を成し遂げた海邦国体にて。武則さんは監督を務め、長期計画で選手を育成した
大城 武則さん 大城 鶴香さん
1989年、家族で波上宮に参拝した時の記念写真
大城 武則さん 大城 鶴香さん
2014年の元日、興南高校の剣道場にて親族と。孫たちの多くも剣道に親しむ
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