沖縄の日刊新聞「琉球新報」の副読紙「週刊レキオ」沖縄のローカル情報満載。



[No.1611]

  • (金)

<< 前の記事  次の記事 >>

「表紙」2016年03月10日[No.1611]号

母娘燦燦

母娘燦燦 — おやこ さんさん — 48



陶芸家
国吉 安子さん
国吉 真由美さん

亡き父の思いを支えに

 北中城村安谷屋、住宅地の一角にある「陶庵」は陶芸家の国吉安子(68)さんと娘の真由美さん(43)の作品作りの拠点だ。縄文土器のような人形、細長い不思議なフォルムの猫、頭の形をしたランプ…。前衛的な作品から、花器やカップなど、土の温もりが感じられる作品が並ぶ。安子さんの元夫は、「異才の陶芸家」として知られ、陶芸に生涯を捧げた故・國吉清尚さん(1943〜99年)。結婚を機に陶芸の世界へ入った。そんな2人のもとに生まれた真由美さんは、幼い頃から土に触れ、やがて両親と同じく陶芸家の道へ進んだ。清尚さんが導いた世界を母子で歩み続ける。



親子3人陶芸の道に

 「物心つく前から、土に触れていた」という国吉真由美さん。父は作陶で名を成し、母もその世界の人で、陶芸を身近にして育ってきた。

 母の安子さんは陶芸歴46年。陶芸の道に入ったのは、21歳の時。後に夫となる國吉清尚さんとの出会いがきっかけだった。壺屋や益子での修行を経て独立し、読谷村座喜味の「やちむんの里」ができる前に最初に窯を開いた清尚さんを安子さんがサポート。文字通り二人三脚での活動が始まった。

 清尚さんのことを「非常に褒め上手だった」とほほ笑む安子さん。おだてられながら腕も次第に上達。2年目には自分の作品も作り始め、2人で展覧会も開催するまでになった。

 2人は真由美さんが小学2年生の時に離婚したが、「友達として、人間としてなら一生関わってもいい」と思った安子さん。娘と読谷から宜野湾に移った後も、真由美さんは父の工房に手伝いに行ったり、3人で食事をしたりと、一家の良好な関係は続いた。



父の言葉励みに

 真由美さんは大学に入る前はデザインを専攻したいと考えていた。いつでもできる陶芸をあえて勉強しようとは思っていなかったが、いざ受験が近づくと、「やっぱり陶芸に携わっていた方がいい」と考え直し、県立芸大の陶芸コースの受験を決意した。

 合格発表の日、陶芸コースを受けると言っていないのに父が見に来ていたという。手には 合格祝いの茶碗。この日のために事前に制作していたのだ。自分たちと同じ道に踏み出そうとしている真由美さんの合格を安子さんと同じく清尚さんも喜んでいたという。

 清尚さんは2人の展覧会も必ず見にきた。「ほぼ一番乗りで来て、誰よりも熱心に見入っていた」と安子さんは振り返る。「とてもいい作品を作っている。必ず認めてくれる人がいるから、作り続けなさい」。 尊敬する陶芸家、清尚さんの言葉は安子さんにとって何よりも心強かった。真由美さんが、強い個性を批判され悩んでいたときも、父は評価し励ましてくれた。

 真由美さんは陶芸から離れた時期がある。1年ほど、県外で暮らしていた頃、まったく陶芸ができない状況になり、初めて「沖縄で焼き物をやっていきたい」という気持ちに気付いた。

 清尚さんが亡くなった時、陶芸をやめようと思ったこともあるという安子さん。それでも清尚さんは焼き物の世界しか知らない人だからこそ「作陶に専念すればするほど、つながり続け、どこかから協力してくれていると思う」と、 今でも2人の心に生き続けている。

納得するものを作る

 真由美さんは数年前から好んで使う色がある。読谷村の赤土から取れるマンガンという釉薬(ゆうやく)を塗り、天然の色で色付けをしている。土の温かみが感じられる作品が人気だ。安子さんも型にとらわれず、器から人形まで独創的な作品を生み出し、展覧会などにも精力的に参加している。

 真由美さんを「いい感性をしている」と母は評価する。取材の際、古い写真で互いの作品を見返した2人。「母からも知らず知らずのうちに影響を受けていたと感じた」と真由美さん。「作品は異なっているようでも、同じ手法を試しているのを見て、後に付いてきていると感じる」と安子さん。

 2人で以前こんなことを話した。「売るために作っているとうまくいかなかったり、いいものができなかったりする。自分が納得する物を、丁寧に作れば、見る人は分かってくれるはず」。そんな心を込めて作った作品を喜んでくれる人や、県内外から展覧会に来る人たちの存在も母子を後押しする。

 真由美さんは息子の宗真君の出産育児を経て、約3年前から本格的に制作活動や個展を再開した。技術的なことや、色の面などで、まだまだ挑戦したいことはたくさんある。今後は作品をきちんと展示する場所を作りたいと親子は口をそろえる。2人の今後の作品が楽しみだ。 

(坂本永通子)



プロフィール

くによし・やすこ
 1947年那覇市生まれ。70年、國吉清尚氏との結婚を機に陶芸を始める。72年國吉清尚氏と二人展を開催。80年、離婚し、真由美さんとともに宜野湾市に移り住む。83年から5回連続で京都女流陶芸展入選。県内外の美術館やギャラリーで個展やグループ展を開催、ハワイ沖縄フェスティバルにも出展。2010年、自宅兼工房を北中城村に移し、親子で創作活動に励む

くによし・まゆみ
 1972年読谷村生まれ。1996年沖縄県立芸術大学陶芸コース卒業。2004年〜2005年那覇高校にて非常勤講師として陶芸指導。2004年に結婚、2006年に長男の宗真君を出産。県内外の美術館やギャラリーで個展やグループ展に参加。宜野湾市大山のgallery shop kufuuで作品を販売

工房:陶庵
北中城村安谷屋1345-1
☎070-5813-9703

真由美さん作品取り扱い店:gallery shop kufuu
宜野湾市大山2-22-18 1F
☎098-890-4095



このエントリーをはてなブックマークに追加



国吉 安子さん国吉 真由美さん
工房兼自宅の一室で、それぞれの作品を前に並ぶ国吉安子さん(写真右)と娘の真由美さん。個性豊かな作品がそろう。奥に見えるオレンジと緑に塗られた竹は故國吉清尚さんの作品=北中城村安谷屋の「陶庵」 
写真・村山 望
国吉 安子さん国吉 真由美さん
読谷の工房で土を確認する安子さんと清尚さん。安子さんはこのとき、真由美さんを妊娠中。1972年
国吉 安子さん国吉 真由美さん
中学生の頃の真由美さんと安子さん
国吉 安子さん国吉 真由美さん
土で遊ぶ2歳の真由美さん。この頃、家族3人で1年半、ハワイで暮らしていた
国吉 安子さん国吉 真由美さん
工房でろくろを回す真由美さん
>> [No.1611]号インデックスページへ戻る

↑このページの先頭へ戻る

<< 前の記事  次の記事 >>