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[No.1591]

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「表紙」2015年10月15日[No.1591]号

母娘燦燦

母娘燦燦 — おやこ さんさん — 29

宮陶房 宮城 須美子さん 山城 尚子さん

父の技、子から孫へ

 豊かな自然が残る読谷村座喜味にある「やちむんの里」。後に人間国宝になる金城次郎さんが1974年に那覇市壺屋から窯を移したのを機に発展、多くの陶工が集まるようになった場所だ。その一角にあるのが次郎さんの長女、宮城須美子さん(76)が主宰する「宮陶房」。父のトレードマークだった魚紋などを用いながら、女性らしい優しさあふれるデザインを生み出している。須美子さんの次女、山城尚子さん(48)もこの工房で母を支えながら、自らもシーサー職人として活躍している。須美子さんたち一門の手により伝統は現代に受け継がれている。



受け継がれる伝統の技

 1985年に沖縄県初の人間国宝に認定された陶芸家の金城次郎さんは、沖縄の陶芸界の発展に尽力したことで知られる。当時、人間国宝誕生のニュースに県民は歓喜に沸いた。長女の宮城須美子さんは「あちこちから来る祝福の電話が鳴り響いていました」と振り返る。

 2004年に92歳で生涯を終えた後も、線彫りの魚や海老(えび)模様の個性豊かな作品は、今も多くの人に愛され続けている。その技術は、娘の須美子さんをはじめとする3人のきょうだい、そして孫たちへと引き継がれている。

 須美子さんが本格的に陶芸を始めたのは43年前。父の下で修行をしていた夫の宮城智(さとる)さんと共に「宮陶房」を開設したときだ。とはいえ、幼いころから焼き物に囲まれた生活をしてきたというメリットがあった。子どものころから父の手伝いをする中で、技術は次第に身に付いていった。



見て覚えた父の技法

 次郎さんは、自分の弟子時代がそうであったように、「見て覚えろ」というタイプ。須美子さんは手取り足取り教えてもらったり、アドバイスをもらったりしたこともないという。「いつも『上等、上等』しか言わなかったです」と笑う。

 夫婦で工房を営んできたが、2002年に夫の智さんが他界。同じ陶芸の道に進んだ長女の藤岡香奈子さん、次女の山城尚子さん、そして三男の宮城三成さんに支えられながら工房を切り盛りした。長女と三男が独立した現在は、次女の尚子さんが、母を手伝いながらシーサー作りに励んでいる。

 陶芸は「地味な仕事なので好きじゃないと続かない」という須美子さん。休日の日曜日以外、朝9時から午後6時まで黙々と作業を続ける。

 ずっと同じ姿勢でいるため、肩凝りが絶えない。でも、一度も苦に思ったことはない。「作品を見に来てくれる人との出会いがこの仕事の魅力。沖縄に来るたびに立ち寄ってくれる人もいてありがたい」と話す。

 そんな母をサポートする尚子さんは、現在は主に漆喰(しっくい)のシーサーを制作している。子どものころは、バイト料が欲しくて祖父や父の手伝いなどをしていたが、高校卒業後に結婚し、他の仕事に就いた。

 1995年、28歳のときに次男を妊娠し退職したことが転機になった。再び母の工房で働き始め、2003年にはシーサー職人として自立。しかし、すぐに売れるわけはなく、当初は別の仕事と掛け持ちしながら制作する日々だった。そうするうちに、業者が引き取ってくれるようになり、12年目の今では「おかげさまでこの仕事で生活できるようになった」という。

 そんな尚子さんを「本当に上手だし、すてきなシーサーを作っています。よくここまで頑張った」と母は評価する。

喜びの声が励みに

 シーサー作りは「作れば作るほど、いろいろな表情が出てくるので、楽しい」と尚子さんは目を輝かせる。作品を購入した人から「家にシーサーを置いてからいいことがあった」など報告の電話や手紙も届く。心を込めて作った作品を喜んでもらえることはやりがいだ。

 尚子さんは、母も昔からよく作っていた焼き締めのシーサーに今年初めて挑戦した。1回目に窯から出てきたシーサーは足の部分が破裂してしまい失敗に終わったが、2回目にやっと満足のいく作品が完成した。子育てが終わった今は、好きなものを作りながら、品評会にも出品したいと意欲的だ。

 須美子さんは、今はゆっくりとマイペースに作品と向き合う。趣味の時間も大切にしている。週1回、カラオケ教室に通い、演歌を歌うことが楽しみだ。「仕事が1番、歌が2番。趣味があるおかげで、仕事もますます頑張れます」とほほ笑む。

 「子ども3人がこの道に進んでくれてうれしい。主人も喜んでいるはず」と目を細める。次郎さんが始めた伝統の技は、継承する者たちの作品の中に息づいている。

(坂本永通子)



プロフィール

みやぎ・すみこ
 1939年、陶芸家の金城次郎の長女として那覇市に生まれる。3人きょうだいの真ん中で、兄と弟も陶芸家。1972年に夫とともに沖縄市で「宮陶房」を開く。2002年に61歳の若さで夫が他界し、宮陶房を引き継ぐ。3男2女、孫9人、ひ孫1人に恵まれた。沖展、沖縄市産業まつり、日本現代工芸美術展、現代沖縄陶芸展など入選歴多数。県内外での個展も多数開催

やましろ・なおこ
 1967年、沖縄市生まれ。高校卒業後、結婚。事務の仕事に携わっていたが、次男の妊娠をきっかけに退職。母の工房でシーサー作りを始める。現在は漆喰シーサーを主に制作。2人の息子の母。孫が1人いる

宮陶房
読谷村座喜味2677-6
☎098-958-5094
営業時間:9時〜18時
年中無休



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宮陶房
それぞれの作品を手に持つ宮城須美子(左)さんと次女の山城尚子さん。後ろに並ぶのは須美子さんの作品。工房には県内外から作品を求めて多くの人が訪れる=読谷村座喜味・宮陶房  
写真・村山 望

宮陶房
須美子さんが作ったシーサーの窯出し。今年尚子さんは母同様、焼き締めのシーサー作りを始めた
宮陶房
線彫りを皿に施す須美子さん
宮陶房
漆喰シーサー作りをする尚子さん
宮陶房
登り窯の前で、作品の焼き上がりを待っているときの写真。左から三男の三成さん、尚子さん、須美子さん、智さん
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