沖縄の日刊新聞「琉球新報」の副読紙「週刊レキオ」沖縄のローカル情報満載。



[No.1562]

  • (木)

<< 前の記事  次の記事 >>

「表紙」2015年3月26日[No.1562]号

gogo sports

GO!GO!スポーツ 19

合気道
養神館合気道龍沖縄
指導者比嘉 志乃(しの)さん

勝ち負けのない争わない武道

 流れるような動作で軽く力をかけているように見えながら、かかってきた相手が宙を舞い、大きな動作で投げ飛ばされる。合気道の稽古は一見アクロバティックなものにも見えるが、その動きはとても理にかなったものだと、合気道女性指導者の比嘉志乃さんは言う。

 「体験してみるとよく分かるのですが、相手の力を効率よく逃がそうとすることで自然にああいう大きな動きが生まれるんです」

 日本古来の武術を取り入れ、戦後に生まれた合気道は「争わない武道」ともいわれ、護身術や健康法としても人気が高く、国内に10万人以上の愛好者がいる。まだまだ合気道の魅力が広く知られていない沖縄に合気道を普及させたいと9年前にご夫婦で道場を始めた志乃さんに話を聞いた。



相手と一体となり技を生む

 宜野湾市大山の畳敷きの道場に門下生たちが集まり、きちんと一列に正座し、ピシリと礼をすることから稽古が始まる。そして、すり足や膝をついて歩く基本の動作などを繰り返してから、2人で組んで一連の動きの練習をする。黙々とお互いに技をかけあう練習風景には、和やかな雰囲気の中に独特の緊張感を感じられる。

 「合気道で大切なのは、姿勢を正し中心軸を保ち、持てる力を効率よく相手に伝えることです。技は『仕手』と『受け』という役割を決めてかけ合いますが、受けは技を決められてしまうと、受け自身の体や床などどこかを叩くことでそれを知らせます。すると、仕手は絶対にそれ以上技をかけません。こうした思いやりや意思表示のコミュニケーションは合気道の魅力のひとつだと思います」と比嘉志乃さん。

 千葉県に住んでいた志乃さんが合気道と出合ったのは今から14年前の20代半ばの頃、千葉県内にある道場に通い始めたのがきっかけだったそう。

 「子どもの時からお世話になっていたピアノの先生が合気道もやっている方で、その方に勧められたんです」

 その頃の志乃さんは仕事で悩むことなどがあり、将来への不安を感じていた。そうした様子を見て勧めてくれたのではないかという。「実際に体験してみると、初対面の人ともつかみ合ったり、時には汗がかかったりするようなスキンシップが新鮮でした。合気道は勝ち負けを決めたり、争い合ったりする武道ではなく、相手と一体となることで技を生み出します。さまざまな相手を受け入れ、その力をきちんと把握するというスキンシップからは、元気やエネルギーをもらえる感覚があると思います」と言う。

 始めたばかりの頃に感じたその感覚は、今でも実感するそう。「一緒に稽古をする仲間と触れ合えることに、とても感謝の気持ちを感じるんです」



 志乃さんは千葉の道場に通っていた頃、指導者を務めていた沖縄出身の亮一郎さんと結婚し、合気道普及を目指して2006年に沖縄へ。現在は2人の子どもの子育てもしながら門下生たちを指導している。

 「合気道をここまで続けるとは、師である人と結婚するとは、そしてまさか沖縄に来ることになるとは、まったく思ってもいませんでした(笑)。でも、合気道をする者にとって『継続は力』。すぐに器用にこなすよりも地道に続けていくことで、技に磨きがかかってきます。年齢を重ねることで円熟してくるものがあるんです。私はまだまだですが」

 門下生の一人、高校生の糸村美由羽(みゆう)さんは志乃さんの指導について「とても楽しく、しっかり教えてくれます。合気道はコミュニケーションが楽しいと実感しています」と語る。

 全国に比べ、合気道人口が少ない沖縄だが、志乃さんは「沖縄の人は子どものように柔軟に受け入れ、臨機応変で流れのある動きをすることができる方が多いです。無理のない運動としても健康によいので、興味を持ったらぜひ体験してみてください」と言う。

 志乃さんは夫の亮一郎さんとともに、今日も笑顔で指導を続けている。

長嶺陽子/写真・村山望

このエントリーをはてなブックマークに追加



合気道
約80人の門下生がいる道場での稽古の様子。一回の稽古には10人ほどが参加して、2人一組での基本的な型や、多人数で流れのある応用した技の稽古を重ねている。養神館合気道龍沖縄=宜野湾市大山

合気道
取材日に道場に集まった皆さん。門下生は4歳から70代まで稽古に訪れる
合気道
合気道は女性が男性を制することもできる。武器を持った人を想定して動きを制する型もある
合気道
「合気道の魅力は人と人の触れ合いです」と語る比嘉志乃さん
合気道
ルール
合気道とは、武道家・植芝盛平が大正末期から昭和前期にかけて、日本古来の柔術、剣術などの各流各派の武術を研究して創始した武術であり、戦後に総合武道として発表した。植芝盛平の弟子である塩田剛三が独自の基本体形を重視して養神館合気道を創始した。勝ち負けを決める「試合」はなく、合理的な身体の運用により体格や体力に関係なく相手を制することができる。段級位制がある。

●養神館合気道龍
ホームページ http://www.aikidoryu.or.jp/
●養神館合気道龍 沖縄
(師範 比嘉亮一郎)
宜野湾市大山1-10-24-2F
電話090-2438-3693
ホームページ https://sites.google.com/site/aikidookinawa/

>> [No.1562]号インデックスページへ戻る

↑このページの先頭へ戻る

<< 前の記事  次の記事 >>