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[No.1521]

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「表紙」2014年06月05日[No.1521]号

RED OKINAWAカラー 10

OKINAWAカラー 10

育てる喜び 実感
パッションフルーツ農家吉浜清裕さん

 もわっとした熱帯のムードが漂う糸満市摩文仁のビニールハウスの一角に、まるで洗濯物のようにつるされた黄色い果実。収穫期に入り、出荷を待つパッションフルーツだ。普通は紫をイメージするが、実はごく少量ながら、黄色い品種も栽培されている。優しいまなざしで果実を見つめるのは、農業歴4年、パッションフルーツ栽培は1年目という若手の農業青年、吉浜清裕さん(30)。「この果物は繊細で手間がかかります。でも、やった分だけ確実に応えてくれますよ」と笑う。



手間暇かけて栽培

うっとりするような香りに、酸味と甘みが混じり合う魅惑の熱帯果実、パッションフルーツ。その名産地として知られるのが糸満市。3〜6月の収穫のシーズンには、摩文仁にある糸満観光農園のビニールハウスにも、たくさんの果実が実る。

 「パッションフルーツの実は緑のまま地面に落ちてしまうんです。それを拾い集めてロープにつるし、熟するのを待つんですよ」と吉浜さん。ビニールハウスの一角に張られたロープには、洗濯物のようにつり下げられた果実がズラリと並ぶ。その光景はなんともユニークだ。

 実は熟すると紫になるが、品種によっては黄色く色づいていくものもある。紫の実より一回り大きく、ワックスをかけたような光沢と丸い形が印象的だ。

 黄色い品種はその美しさ、珍しさから観光客に人気があり、高級レストランのデザート器として利用されることもある。1個約350円と高額で販売されるが、収穫量が少なく手がかかるので、ごくわずかな量しか栽培していない貴重な品だ。吉浜さんのビニールハウスでも、200本ある木のうち、黄色い実がなるのは1本だけという。



ゼロから農業の道へ

 那覇市の住宅街で育った吉浜さんが農業の道に足を踏み入れたのは26歳の時。「まさか自分が農業をやるとは思っていませんでした」と振り返る。

 きっかけは、当時1歳だった息子の清太君がミニトマトが大好きだったこと。経験はゼロだったが、息子のためにホームセンターで苗を買い、家庭菜園で育ててみた。「肥料、水、土と分からないことばかりでしたが、自分で調べながら挑戦しました。そうしたら案外うまくいって、息子もすごく喜んでくれました。それで、農業を仕事にしてみたいと思ったんです」

 吉浜さんは勤めていた飲食店をやめ、求人情報誌に掲載されていた糸満市の菊農家のもとに飛び込む。

 その菊農家では、菊の収穫の合間にゴーヤーやキャベツなどの野菜を栽培しており、吉浜さんは「土や苗をしっかり作らないと、きれいな野菜はできない」と学んだという。

 しかし、全てを手取り足取り教えてくれたわけではない。「会社に雇われていると、分からないことは教えてくれます。でも農業は『見て学べ』という世界。『なんで分からんのか』と突き放されてしまうんです」

 吉浜さんは、先輩の作業を見たり、本で調べたり、手探りで農業のノウハウを身につけていった。



初収穫を迎えて

 吉浜さんの努力は周囲にも認められ、「糸満観光農園でパッションフルーツのハウスに空きがある。やってみないか?」と声がかかり、昨年の7月に独立。栽培を始めた。

 「パッションフルーツは難しく手間暇がかかります」と吉浜さんは苦笑する。水をやりすぎて根腐れを起こす失敗も経験した。苗が成長してくると休みもなく、午前は剪定(せんてい)、午後は一つ一つ手作業での受粉に追われる。多い日は1日1000個の花を1人で4〜5時間かけて受粉させることもあるという。今年の3月、初の収穫を迎え、「やっとか…」と胸をなで下ろした。苦労のかいあって、出来栄えは思った以上だ。

 「怠ければそれなりのものしかできません。でも、農業は手をかければかけた分だけ返ってきます」と吉浜さんは力をこめる。その頼もしい眼差しに沖縄の農業の明るい未来を感じた。



日平勝也/写真・喜瀬守昭(サザンウェイブ)

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吉浜清裕さん
黄色いパッションフルーツを目の前に喜びの表情を浮かべる吉浜清裕さん=糸満市摩文仁の糸満観光農園内のビニールハウス
吉浜清裕さん
黄色の品種(左)は通常の紫に比べ、形が丸く大ぶり
吉浜清裕さん
割ると甘い香りが周囲に漂う。中にはゼリー状の種がぎっしり。吉浜さんのパッションフルーツは、「ファーマーズマーケットいとまん うまんちゅ市場」などで販売
吉浜清裕さん
実を確実につけるため、雄しべの花粉を一本ずつ丁寧に手作業で雌しべにこすりつけ受粉させる
吉浜清裕さん
パッションフルーツはトケイソウ科の果物。花の雄しべと雌しべが時計のように見える
吉浜清裕さん
問い合わせは
☎ 090(1942)9211〔吉浜〕
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