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[No.1899]

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「島ネタCHOSA班」2021年09月30日[No.1899]号



 昔の沖縄の人が使っていたトイレ、フールって知ってますか? 最近まで私も全く知らなかったんですが驚きの仕組みです! どうしてあんな仕組みになったの?? いろいろ気になるので調べてください。

(沖縄市 ザ・フールとイギー)

まずは知ってみて! フールの話

 お食事中の方ごめんなさい! 今週はかつて沖縄で使われていたトイレ兼豚小屋「フール」のお話です。

 フールは戦後しばらくの間まで県内の家々で使われていました。多くの場合、琉球石灰岩を組んで作った囲いとアーチ状の屋根で構成されます。この中で豚を飼育するのですが、囲いの前方には人間が排泄する便器(トゥーシヌミー)がつながっており、人の排泄物を豚のエサとして利用していたんですよ。

 …知らなかった人は、もうこれだけでびっくりですよね(笑)。調査員は今回、フールについてさらに知るべく、獣医師でノンフィクション作家の平川宗隆さんにお話を聞きました。平川さんは今年7月に著書『沖縄フール曼荼羅(まんだら)』を発表しています。

豚が大切だった証し

 「アマウテー(あそこでは=中国では) ウヮーンカイ(豚に) チュヌクス クヮースンディドウ(人糞を食わすそうだよ)」

 「エー フントーナー(えー本当かい)」

 「ディー アンセー ワッターン(それなら私たちも) アヌフージー フール チュクティンダナ(中国のようにフールを作ってみるか)」

 以上は、フールが作られるようになった16~17世紀ごろの琉球の人々の会話を平川さんが想像したもの。中国からフールが伝わったことがわかりますね。中国では漢代の副葬品から、フールと似た構造のトイレの模型が見つかっています。

 また1605年、野国総管が持ち込んだイモ(甘藷)も、フール普及のきっかけとなった、と考えられています。イモが琉球の農民を飢餓から救ったのは有名な話ですが、人が利用できない皮、茎、ひねて食べられなくなったイモも家畜のエサとして活用できました。おかげで豚を肉用に肥育したり、子豚を増やせるようになり、養豚は人々の大事な副業になりました。そこから平川さんは、フールの構造にも考察を広げます。

 「人々は、大切な財産である豚を守るため、台風にも壊れない頑丈な石造りのフールを作るようになりました。自分の住む家はバラックでも豚小屋と先祖を大切にするウチナーンチュの意気込みで、お墓とフールはどこの国にも負けない石造りなった、と考えています」

 フールで飼育する豚のエサ全体に対する人の排泄物の割合は、2、3割程度だったようです。とはいえ、下水道など無かった昔の暮らしには、排泄物を豚に与えることは合理性のある方法だったのでしょう。

各地で文化財に

 現在でも県内や奄美大島などでその名残を見ることができるフールですが、大きさや形には家ごとの差異があると平川さんは教えてくれました。

 例えば、北中城村の国指定重要文化財、中村家住宅のフール。3つの飼育スペースが連なり「芸術品」とも言える作りです。これは資本や社会的地位が無いとできない建築だそう。同時に3頭を飼育できるお宅はお金持ちだったんですね。

 この他、見応えのあるフールがある場所としては、名護市源河の屋敷跡、源河ウェーキ(名護市指定文化財)、沖縄こどもの国・沖縄市ふるさと園内の旧平田家住宅(登録有形文化財)、北谷町の「うちなぁ家」(登録有形文化財)などが挙げられるそうです。

 最後に「現在もフールの跡が家にある」という方へ、平川さんからメッセージです。

 「屋敷の邪魔になっている、アタイグヮー(畑)や駐車場にしたい、などの理由でフールを壊す場合がありますが、地元の教育委員会などに相談してみてはいかがでしょうか。移設すれば観光や歴史教育に役立つかもしれません。私は、残っている各地のフールをまとめて『琉球における独特なトイレ群』として日本遺産に登録できると信じています」

 今の人からすると、引いてしまうようなフールの文化ですが、そこには先人たちの思いや知恵も詰まっています。どこかで見かけた際は、かつての暮らしを想像してみてください。



〈参考文献〉
『沖縄フール曼荼羅 いにしえの〈豚便所〉トイレ文化誌』
著者:平川宗隆
発行:ボーダーインク
2420円

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まずは知ってみて! フールの話
平川宗隆さん。ベトナムの調査時に撮影(提供写真)
まずは知ってみて! フールの話
沖縄市の松下宏さん宅にあったフール。現在は名護市内の観光施設「アグー村」に移設されています(提供写真)
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