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[No.1978]

  • (金)

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「表紙」2023年04月06日[No.1978]号

琉球王朝時代の味を受け継ぐ
玉那覇味噌醬油

160年以上続く伝統の味噌造り

 明治維新よりも前の安政年代(1855~60)、最後の琉球国王・尚泰王の治世下に創業した玉那覇味噌醬 油。厚さ3尺余(約90㌢)の重厚な石垣に囲まれた首里大中町の工場で、食品添加物・化学調味料未使用、 厳選された丸大豆、自家製の麹(こうじ)、天然塩のみを使った伝統的な味噌造りを続けている。5代目当 主である玉那覇有紀(ありのり)さん(87)に、明治時代から使用しているという木樽の並ぶ工場を案内し てもらった。

 首里城から龍潭を抜け、かつ ては石畳だった安谷川平(あだ にがーびら)と呼ばれる坂道を 下っていくと、蔦(ツタ)に覆わ れた長い石垣が見えてくる。石 垣は、琉球王国時代に首里士 族の武家屋敷であった「仲田殿 内(どぅんち)跡」を囲ってお り、琉球処分後に玉那覇味噌 醬油がその一角を買い取ったも のだという。

 敷地内の工場は木造。中に 入ると、木と味噌の香りが混 ざった、独特の心地よい香りが 漂ってくる。「工場の木材は、戦 前のものですよ」と有紀さんが 教えてくれた。沖縄戦の爆風で 倒壊してしまったものの、戦後 に消失を免れた木材をかき集 め、再建したそうだ。味噌を熟 成させる木樽も、明治時代か ら受け継がれたものを修理し ながら使っているという。古い 木材に囲まれた工場は、時間の 重みを感じさせる。

自家製麹へのこだわり

   味噌は、丸大豆を麹で発酵・ 熟成させて造る。取材の日、工 場では、蒸してつぶした大豆に 自家製の麹と県産の塩を混 ぜ、チョッパーでさらに細かく ひき木樽に入れる作業が行われていた。

 蒸した米・麦に、麹菌を植え て発酵させると麹ができる。最 近は、専門の工場で大規模生 産されることが多いというが、 玉那覇味噌醬油では、昔なが らの手作りの自家製麹にこだ わる。保存料や化学調味料な ど、余分なものを使わない伝統 的な製法を守り続けているの も特徴だ。

 「麹は生きものなので、温度 や湿度など、気候によっても育 ち方が違ってきます」と有紀さ ん。味噌の味を決める麹の出 来栄えには、長年受け継がれて きた知恵と技術、職人の経験 がものをいうそうだ。

 塩・麹と混ぜ合わせた丸大 豆を木樽に入れ熟成させる。 「本土では冬に仕込み、約1年 かけて発酵させますが、沖縄で は夏場で3〜4カ月、冬場で6 〜7カ月程度で出来上がりま す」。沖縄の高温多湿な気候 は、味噌造りに合っている、と 有紀さんは力を込める。

苦境乗り越え未来へ

 安政年代に創業し、160 年以上にわたり、伝統の味を守 り続けてきた玉那覇味噌醬 油。 首里の豊富な水量は味噌 造りに適しており、三代目の有 宏さん(有紀さんの祖父。故 人)が明治から昭和にかけ、沖 縄戦からの復興も含め、事業 を発展させていった。

 復帰直前の1971年、有 紀さんの母・久子さん(故人) が四代目を世襲。東京で一級建 築士として活躍していた有紀 さんも帰沖し、建築事務所を 営む傍ら、家業を手伝うよう になった。

 しかし、 72 年の本土復帰に 伴い、本土から大手メーカーに よる大量生産の味噌が流入。 沖縄の味噌醬油事業は衰退し ていく。「県内で麹造りから発 酵・熟成まで全ての工程を自社 で行う蔵のほとんどがなくなり ました。逆境の中、玉那覇味噌 醬油が今日まで事業を続けて これたのは、伝統の味を忘れず にいてくれたお客さまのおかげ です」と有紀さんは振り返る。

 伝統を守りつつも、平成のは じめ頃から新商品の開発にも 取り組み始め、 93 年には高品 質を追求した「王朝みそ」、 99 年にはウコンを配合した「うっ 160年以上続く伝統の味噌造り ちんみそ」の販売も開始した。 王朝みそは、贈答用に好まれ、 ネット経由で全国注文がある という。うっちんみそも、味噌 の甘みとウコンのかすかな風味 がマッチし、健康にもよいと好 評だ。今年2月には、ラフテー を味噌で煮込んだ「首里のらふ てい」「首里のとろっとらふてい 丼」をレトルトパウチで発売。さ らに新しい展開を見せている。

 2014年に五代目に就任 した有紀さん。昔ながらの味を 受け継ぎ、安心・安全な味噌造 りを続けるとともに「今は止 まっている醬油造りを再開し たい」と意欲を燃やす。伝統の 味噌と醬油が、200年、30 0年後の世代にも受け継がれ ていくことに期待したい。

(日平 勝也)



有限会社 玉那覇味噌醬油
☎098(884)1972 (平日9~17時) tamanahamiso.co.jp

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玉那覇味噌醬油
安政年代(1855~60)に創業し、首里大中町で 伝統の味を守り続ける玉那覇味噌醬油。戦前の 木材で建てられ、今も明治からの木樽を使う工 場で味噌造りの様子を見学した=3月17日

工場内部では、蒸してつぶした大豆に自家製の麹 (こうじ)と県産塩を混ぜる作業が行われていた。麹 はうっすらと黄色味がかかっている
写真・村山 望
玉那覇味噌醬油
(上)玉那覇味噌醬油の敷地は重厚な石垣に囲まれている
(中)麹・塩と混ぜた大豆はさらにチョッパーで細かくひ かれ、木樽に入れて寝かせる
(下)工場に並ぶ木樽は明治時代から受け継がれるもの
玉那覇味噌醬油
工場の前に立つ玉那覇味噌醬油5代目当 主の玉那覇有紀さん
玉那覇味噌醬油
味噌は「首里みそ」「特選みそ」「うっちんみ そ」「王朝みそ」の4種類。県内の小売店の ほか、インターネットの通販サイトで購入で きる
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