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[No.1900]

  • (金)

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「表紙」2021年10月07日[No.1900]号

タカの渡りが告げる秋
南へと渡るアカハラダカ

人々が見上げる空をタカ渡る

 日中はまだ30度を超える県内だが、二十四節気の「白露(はくろ)」を過ぎれば、日差しは多少やわらぎ、朝夕の風もひんやりする。この時期を境に観察されるのがアカハラダカやサシバなどタカ類の渡りの様子だ。沖縄島では名護市内の山々が観察場所として知られている。渡りの様子を観察・記録するため、また季節の風物詩として愛でようと集う人々に話を聞いた。

 夏の間繁殖のため、中国東北部や朝鮮半島で過ごすアカハラダカは、冬が近づくと東南アジアなどに群れで渡る。途中、九州西側や南西諸島の島々を経由・通過するが、これらの地では長く留まることのない「旅鳥」だ。県内で観察できるのも、エサの確保や夜間の休息のために飛来している群れである。沖縄島北部の山々と宮古島では、9月中旬から10月上旬にかけて、一度に千羽以上が観察されることもあるそうだ。

 天気の良い朝、アカハラダカが夜を過ごした山々を日光が温めると上昇気流が発生する。タカたちは翼で気流に乗り、らせんを描きながら高度を上げていくが、数百羽を超える群れになるとその光景は圧巻だ。この現象は「鷹柱(たかばしら)」と称えられる。十分な高度に達した群れは南へと進路を向け渡っていく。

渡りの時期は毎朝山へ

 名護市内の観察場所として知られる嘉津宇岳(かつうだけ)。記者が訪れた日は、風が強く、まとまった群れを観察することはかなわなかったが、沖縄野鳥研究会の嵩原建二さん、名護博物館学芸員の村田尚史さんが登山道入り口の広場で空を見上げ、タカを探していた。

 アカハラダカの渡りが国内で初めて確認されたのは1980年の宮古島だった。長年野鳥の観察・記録を続ける嵩原さんは「夏場の生息地からすると、渡りの一団は沖縄島にも訪れている可能性が高いと思っていました」と振り返る。その予想は的中し、80年代半ばに大宜味村で群れを初確認。名護市内での調査も始まった。

 渡り鳥の生態や環境の変化を知るために、継続的なモニタリング調査の重要性を説く嵩原さん。08年からは名護博物館と連携し、市内で定点観察を始めた。9月の白露をすぎると、嘉津宇岳と名護岳でほぼ毎朝、関係者がその日のタカの数や、天候、風向きを記録している。

 村田さんは博物館のブログで毎年の状況をまめに公開している他、宮古島や阿嘉島など他地域とのデータ共有にも熱心だ。「記録を始めて10年以上、まだまだわからないことが多いです」と控えめだが、16年には1シーズンで約2万4千羽という記録的な数も観察。毎年の観察は有効なデータになっている。

 名護岳へ観察に通うのは、名護市教育委員会文化課の宮里ひな子さん。名護博物館友の会のメンバーと協力し、天上展望台で360度を探している。「まれに観察場所近くを通る個体がいると歓声があがります」と魅力を伝えてくれた。季節の変化を肌で感じる現場であるそうだ。

季節の風物詩

 この時期の嘉津宇岳には、タカ類の渡りの様子を見ようと生き物が好きな一般の人々も訪れる。大阪府から初めて嘉津宇岳を訪れたのは深田治さん。生き物の撮影が趣味で、長崎県の烏帽子岳でもアカハラダカの撮影経験があるそうだ。固有種や春には南方からの渡り鳥も多数見られる沖縄には、県外の野鳥愛好家も足繁く通う。

 夜明け前に山頂へ登り、タカを待っていたのは大河原浩さん。早朝に沖縄市から車を走らせてきた。「タカが見られなくても毎年通っています。自分にとっては年中行事ですね」と笑った。

 今季のアカハラダカの渡りは終わりつつあるが、10月中旬からは同じくタカの仲間であるサシバの渡りが活発化する。市街地でも群れが見られることもあるので、晴れた日は空を見上げて、初秋らしさを感じてほしい。 

(津波 典泰)



〈タカの渡りに関する情報〉
名護博物館ブログ『日々のなごはく』 
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南へと渡るアカハラダカ

ブログ『名護・自然観察日記』
「タカの渡り」カテゴリ
提供:細川太郎さん

南へと渡るアカハラダカ





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南へと渡るアカハラダカ
毎年9月に入ると、越冬のため南へと渡るアカハラダカの群れが県内各地で観察される。渡りのピークは下旬から10月上旬。早朝に数百羽規模の群れが空高く舞う様子は「鷹柱(たかばしら)」と呼ばれる。9月25日、日の出から間もない名護市の嘉津宇岳(かつうだけ)中腹には、渡りの様子を記録する名護博物館の関係者や野鳥愛好家たちが集まった。嘉津宇岳上空を旋回するアカハラダカの群れ(写真・村山 望)
南へと渡るアカハラダカ
双眼鏡や望遠鏡でタカの群れを探す
南へと渡るアカハラダカ
アカハラダカ。全長約30㌢(嵩原建二さん撮影)
南へと渡るアカハラダカ
(左から)沖縄野鳥研究会の嵩原建二さん、名護博物館学芸員の村田尚史さん。コロナ禍以前、名護博物館では、一般市民を対象にした渡りの観察会も開催しており、その再開が待ち遠しいところだ。「年に一度、ここで顔を合わせる方もいます。誰かに会えるのも楽しみですね」と嵩原さん
南へと渡るアカハラダカ
飛翔するアカハラダカ(成鳥)。やや赤っぽい色の胸部分と翼下面の先端が黒いのが特徴 (写真・村山 望)
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