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[No.1895]

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「表紙」2021年09月02日[No.1895]号

装画にこめる理想の女性像
画家 山城えりかさん

幻想的な作品世界 緻密に描く

 芥川賞作家・金原ひとみさんの小説をはじめ、多数の作家の小説装画を手掛ける画家・山城えりかさん。フェミニン(女性的)で装飾的、物語を感じさせる画風で知られ、作品には女神のように凜(りん)とした女性たちが登場する。独特の幻想的な作品世界はどのように生み出されるのか――。現在、糸満市を拠点に制作を行う山城さんに話を聞いた。

 山城えりかさんの描く絵は独特だ。

 描かれるのは、女神のように美しく凜とした面立ちの女性たち。彼女らの周囲を、草花をはじめとする装飾的なモチーフが彩る。登場するモチーフの一つ一つは写実的に描かれるが、その組み合わせと配置により、画面には幻想と現実が入り混じった不思議な世界が出現する。

 女性たちの表情はどこか謎めいており、さまざまな物語を秘めているように感じさせる。ただ甘美なだけではなく、刃物のような鋭さを持つ彼女の絵には、非常に現代的な感覚がある。そこが、金原ひとみさんはじめ当代の作家たちの装画に選ばれる理由なのだろう。

幼少期から創作に夢中

 「子どもがお人形さんを愛でる感覚かもしれませんね」

 女性には普遍的なテーマがあると感じ、専ら憧れの女性像を描いているという山城さんの絵には、男性がほとんど登場しない。その理由を尋ねると、こんな返事が返ってきた。

 「子どものお絵描きって、お姫さまを描くでしょう。その延長なのかも」。原点には、宝石や人形を愛でるような気持ち、美しいものに見とれていたいという思いがあるのでは、と自らの創作の動機を分析する。

 那覇市で過ごした子どもの頃から、絵を描くのが大好きだった山城さん。「私は一つのことに夢中になってしまうタイプ。絵本や創作、漫画以外のことに関心が薄い子どもでした。漫画家かイラストレーターを目指していて、それ以外の選択はみじんも考えていませんでした」。高校卒業後に上京し、女子美術短期大学、セツ・モードセミナーで研さんを積んだ。

 在学中から多くの作品を精力的に発表し続け、卒業後も東京、沖縄、ロサンゼルス、マイアミ、香港などで個展・グループ展を次々と開催していく。

 ネットに掲載した作品を見たブックデザイナーから声がかかり、2008年からは小説の装画も手掛けている。

 「私は書籍のプロダクト(商品)としての側面が気に入っていて、本のカバーを表も裏も一続きの絵として考えます。帯も要素の一部ととらえ、帯で隠された部分も意識しています」

 装画として与えられたテーマ、制約の中でさまざまな工夫を凝らし、時にはブックデザイナーに提案を行うこともあるという。自らが手掛けた装画に込めた仕掛けについて熱く語る山城さんの語り口からは、装画にかける真剣な思いが伝わってきた。

沖縄への思い

 2013年、山城さんは「子育てを沖縄でじっくり行いたい」と、両親の郷里である糸満市を生活の拠点に。夫と、現在6歳の娘と共に暮らす。

 子育てに生かそうと学び始めた心理学や、そこから興味が湧いたヨガに熱中。興味を持ったら一筋という性格から、ヨガは講師を務めるまでになったが、「最近、またアートに戻りつつあります」と笑う。

 今年7月には、金原ひとみさんの新聞連載小説『クラウドガール』に提供した挿絵の原画展を糸満市米須の美術館「キャンプ・タルガニー」で開催し、注目を集めた。

 「新聞の挿絵は消費されていくだけ。消費されたくないという思いが強かった」。16年の連載当時から、絶対に原画展をやると決め、連載が続いた4カ月の間、毎日休むことなく、原画として見せられるクオリティーを保つ挿絵を懸命に描き上げた。時には空間や間を意識し、時にはゴッホやクリムト、北斎など歴代の画家へのオマージュを織り込むなど、読者の目を引く意匠もふんだんに詰め込んだ。

 「13年間離れていた沖縄に戻ってから、再発見もあった」と目を細める山城さん。現在、沖縄をテーマにした企画も温めているという。

 アートの話になると、息つく暇もなく生き生きと語リ出す山城さん。絵への熱い思いが彼女を創作へ駆り立て続ける。

(日平勝也)



ウェブサイト
http://erikayamashiro.com/





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画家 山城えりかさん
今回の表紙は、糸満市在住の画家・山城えりかさんが芥川賞作家・金原ひとみさんの小説『クラウドガール』文庫版のために描いた装画。キャンバスに貼り付けた布地の柄と手描きの絵がシームレスにつながる緻密な工夫が凝らされている=本人所蔵の原画を撮影 写真・村山 望
画家 山城えりかさん
山城さんが装画を手掛けた書籍。カバーの装画は裏表紙や袖まで一続きの絵と考え、帯の効果も考慮しながら描いているという
画家 山城えりかさん
小説『クラウドガール』最終話の挿絵。女性を取り巻くようにさまざまなモチーフが緻密に配置され、浮遊感、幻想感に満ちた世界を生み出している
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