沖縄の日刊新聞「琉球新報」の副読紙「週刊レキオ」沖縄のローカル情報満載。



[No.1846]

  • (金)

<< 前の記事  次の記事 >>

「表紙」2020年09月23日[No.1846]号

与那国(どぅなん)のうた声響かせる
与那国民謡歌手・民具職人 與那覇 有羽(よなは ゆうう)さん

歌で伝える島の歴史と人々の暮らし

 9月23日(水)、与那国島出身の民謡歌手、與那覇有羽(よなは・ゆうう)さんが自身初となるアルバム『風の吹く島〜どぅなん、与那国のうた〜』をリリースした。与那国島のうただけを集めたアルバムの全国リリースは、これまでなかったという。収録曲に関する思いと、島出身らしいおおらかな魅力を持つ人物像を紹介する。

 結った髪にたくましい体型、身に着けるのは与那国の織物「どぅたてぃ」で仕立てた衣装と島ぞうり。三線を持てば裸足になって歌いだす。民謡歌手、與那覇有羽さんには「自然体」という言葉がとてもよく似合う。

 普段は「よなは民具」の代表として、クバ(ビロウ)を主な材料に民具を作り生計を立てる與那覇さん。三線演奏も民具作りも、島の住人たちが日常的に行っているのを見て自発的に始め、覚えたのだと言う。

アルバム制作のきっかけ

 「僕自身は民謡歌手としてやってる気は無いんですよ。どちらかというと地域の行事で演奏する地謡(じかた)みたいな感覚が強い」

 三線や歌は好きだからやっているのだという與那覇さん。沖縄本島で通った高校や大学は伝統文化を学ぶためのカリキュラムがある学校だったが、芸能の世界で活躍するプロになるという気持ちは無かったそうだ。自分がアルバムを出すことなど想像すらしていなかったという。

 状況が一変したのは昨年の夏。民具の仕事で那覇市内に滞在していた與那覇さんは、高校時代から親交のある島唄解説人・小浜司さんに誘われ、とある打ち上げ会場に足を運んだ。会場で小浜さんのリクエストを受けた與那覇さんは、飛び入りの余興として与那国民謡を何曲も披露した。これが東京に事務所を置く「リスペクトレコード」の代表、高橋研一さんの耳にとまった。

 「すばらしい歌声だったので、有羽さんの作品をぜひ! と考えました」と振り返る高橋さん。小浜さんをプロデューサーに迎えてのアルバム制作が決まっていったそうだ。

民謡が伝える与那国

 今回のアルバムに収録されている曲のうち、「どぅなんとぅばるま」など数曲には伴奏がなく、歌唱のみで構成される。与那国島の風景のように、力強く起伏のある曲たちは、人々が文字を持たなかった古い時代から伝わると考えられている。與那覇さんは、この中に当時の人々の思いや暮らしなど「書かれていない歴史」があると感じ、レコーディングを決めたそうだ。

 「六調(ろくちょう)」には九州や奄美、「ゆさぐい節」には土佐からの影響が聞き取れる。交易や漁をする中で、人々がおもしろいと思った歌を持ち帰ったのだろうと與那覇さんは分析している。

 また、昭和初期に作られた「与那国小唄」はご当地ソングだ。全編日本語で歌われる明るい曲調だが、背景には、当時日本に併合されていた台湾に多くの島民が出稼ぎに出たことで、人手が不足した島を興したいという意図も込められている。

 今回のアルバム制作を通し、「与那国島の知らなかった一面も感じることができました」と話す與那覇さん。最西端の島を思い浮かべながら、人々の営みを伝える21曲をぜひ聴いてほしい。

(津波 典泰)



このエントリーをはてなブックマークに追加



与那国民謡歌手・民具職人 與那覇 有羽(よなは ゆうう)さん
 与那国民謡歌手で、民具職人でもある與那覇有羽さん。三線を持ち、海辺に立てば、太く伸びる声で歌い出す。波の様子、飛んでいる鳥、水面近くを泳ぐ魚…。その時々の風景に合わせた歌詞・曲を選ぶという民謡の流儀を楽しませてもらった 写真・村山 望
与那国民謡歌手・民具職人 與那覇 有羽(よなは ゆうう)さん
與那覇さんが製作し販売する民具。〈左から時計回りに〉ウブル(水汲み、大)、ウブル(小)、クバオージ(うちわ)、ぞうり(クバ製)、ぞうり(月桃製)、クバ笠
与那国民謡歌手・民具職人 與那覇 有羽(よなは ゆうう)さん
よなは・ゆうう 1986年6月、与那国島生まれ。2001年、南風原高校郷土文化コースへの進学をきっかけに、島唄解説人・小浜司の店「まるみかなー」を訪れ、交流を始めたことが、今回のアルバムリリースにつながっている。レコーディングには、自身の妻である與那覇桂子、妹の太田いずみ、島で幼いころから彼を知る笛奏者・山口和昭も参加する
与那国民謡歌手・民具職人 與那覇 有羽(よなは ゆうう)さん
『風の吹く島〜どぅなん、与那国のうた〜』
発売元:リスペクトレコード
21曲収録
2,800円+税
>> [No.1846]号インデックスページへ戻る

↑このページの先頭へ戻る

<< 前の記事  次の記事 >>