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[No.1827]

  • (金)

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「表紙」2020年05月14日[No.1827]号

地域の文化財 100年先へつなぐ
株式会社 文化財サービス沖縄営業所

先人の暮らし探求し伝えていく

 「株式会社文化財サービス」は、地域で保存される文化財の発掘や保存、普及を業務としている会社だ。2006年に設立された沖縄営業所では県出身のスタッフたちが、日々多様な文化財を扱っている。一般の目にはなかなか触れることのない、文化財の保護やレプリカ作りの業務について所長の安座間奈緒さんに聞いた。

「これは最近うちで復元した厨子甕(ずしがめ)です」

 中城村和宇慶にある、文化財サービス沖縄営業所。訪れた記者の前に陶器の修復物2点(表紙参照)が置かれた。大きい物は約60センチにもなる厨子甕だ。かつて風葬を行っていた沖縄の島々では、このような大型の壺に洗骨の終わった遺骨を納めていた。厨子甕はその風習を伝える貴重な資料だ。

 厨子甕は発掘時にはバラバラの状態だったという。所長の安座間奈緒さんは、墓の移転に伴い納められていた遺骨も移され、空になった厨子甕は砕かれたのだろうと推測する。文化財サービスでは、厨子甕が出土した金武町の教育委員会から業務委託され修復作業を行った。破片が欠損している部分の形状や模様は、他の資料を参照しながら、エポキシパテという樹脂で造形したそうだ。

新たな知見は細部に

 文化財サービスの業務は多岐にわたる。各地の遺跡に赴いての発掘調査や測量、出土した遺物の保存や整理にレプリカ作り、文化財の情報を地域の人々に発信する普及活用など。どれも貴重な資料とじかに接する業務だ。「小さなことばかりですが、新たな知見の第一発見者になれるんですよ!」と安座間さんは楽しそうに話す。

 これまでの仕事の中で印象に残っているものを尋ねてみると、「石垣島の白保竿根田原洞穴遺跡から出土した人骨のレプリカ作り」という答えが返ってきた。現在までに、国内最古となる2万7000年前の人骨を含む、2体分を制作しているそうだ(県埋蔵文化財センター所蔵)。制作には石膏を使った型取りと3Dプリンターを駆使し、細部にこだわった。 「白保2号と呼ばれている人骨の耳には『サーファーズイヤー』という腫瘍(しゅよう)がありました。海に潜る人特有のものなので海人(うみんちゅ)だったのかもしれません。そこまで再現したレプリカに仕上げました」

 安座間さんは、ただそっくりなものを作るのではなく、自分たちが得た知識を次の世代につなげることが文化財を保護する意義なのだと教えてくれた。

文化財もっと身近に

「今後は修復過程を公開していきたい」と考えている安座間さん。文化財サービスは現在、フェイスブックなどで、一部の文化財の修復や調査の様子を公開している。これからは、子どもたちを対象とした教育普及にも力を入れていきたいそうだ。

 昨年は県内数カ所の学童クラブで文化財に関するワークショップを実施。骨のレプリカを使ったクイズや、地域の遺跡を紹介した。学校の授業では十分に学ぶことができない地域の文化財について知る機会を提供するのが目的だ。

 「実は何百年も前の人骨が学校の近くで出ているんだよ」そう話すと子どもたちも文化財に興味を持ち始めるそうだ。教わった子どもが家に帰って、おうちの人にも文化財のことを話す。そんな状況になればうれしいと安座間さんは考えている。

 地域の人々が文化財をもっと身近に感じることができれば、現在認定されていない文化財も含め、先人の暮らしを100年後にも伝えることができる。そんな信念を持って、文化財サービスのスタッフたちは、過去・現在・未来をつなぐ仕事を今日も続けている。

(津波典泰)



株式会社 文化財サービス 沖縄営業所
中城村和宇慶781-43
☎︎098-895-4089

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株式会社 文化財サービス沖縄営業所
修復した厨子甕(ずしがめ)を前にした株式会社 文化財サービス沖縄営業所所長の安座間奈緒さん。厨子甕は金武町、億首川流域の古墓群から出土したもので、灰色になっているのは同社が樹脂を用いて修復した箇所だ 写真・村山 望
株式会社 文化財サービス沖縄営業所
所長の安座間奈緒さんは、考古学と保存科学を専門とする。「興味関心と体力の必要な仕事です(笑)」と同社の業務を紹介
株式会社 文化財サービス沖縄営業所
人の頭骨レプリカに着色する安座間さん(写真提供:文化財サービス沖縄営業所)
株式会社 文化財サービス沖縄営業所
遺跡から出土した鉄製品の修復のため観察・調査をする様子(写真提供:文化財サービス沖縄営業所)
株式会社 文化財サービス沖縄営業所
龕(がん、遺体を運ぶ昔の霊きゅう車)の装飾に剥落止めの処理を施す様子(写真提供:文化財サービス沖縄営業所)
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