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[No.1792]

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「表紙」2019年09月05日[No.1792]号

優雅な響きに魅せられて
チェンバロ奏者 宮城理恵子さん

繊細な音色 身近で感じて

 チェンバロは、16〜18世紀にかけてヨーロッパで愛用された鍵盤付弦楽器。後の時代に登場するピアノの原型ともいわれ、見た目も似ているが、ピアノとは違った独特の典雅な音色を響かせる。現在、県内で唯一のチェンバロ奏者として活躍する宮城理恵子さんは、高校生の時にチェンバロの音色に魅了され、以来、チェンバロと共に人生を歩んできた。

 チェンバロの音色には、独特の魅力がある。どこか金属的で、それでいて優雅で繊細。その響きに耳を傾けていると、くつろいだ気持ちになる。

 ピアノと同じ鍵盤楽器で、見た目もよく似ているが、両者は別の楽器だ。まず、音が出る仕組みが違う。ピアノがハンマーで弦を叩くのに対し、チェンバロは鍵盤と連動した爪で弦をはじいて音を鳴らす。

 ピアノに比べて音量が小さく、音の強弱が少ないという特徴もある。だが、そういった特徴が、かえってチェンバロという楽器ならではの音色を生み出す要因となっている。

 チェンバロが広く用いられたのは、16〜18世紀のヨーロッパ。華麗な宮廷文化が花開いた時代に、室内で演奏されることが多かったという。サロンのようなほどよい広さの空間には、むしろチェンバロの強すぎない音量がよくなじむ。

生の演奏の魅力

 「チェンバロの響きは、録音や大ホールでは伝わりにくい。楽器の近くで生の演奏を聞いて、初めて魅力が伝わると感じています」と、県内唯一のチェンバロ奏者、宮城理恵子さんは話す。

 小学生からピアノのレッスンを始めた宮城さん。当時は音楽の様式について意識はしていなかったものの、好きな曲は決まってバッハを代表とするバロック音楽だった、と振り返る。

 バロック音楽の時代は、チェンバロの時代と重なる。現在はピアノで演奏されることが多いバッハの曲も、もともとはチェンバロを想定して作曲されたという。

 けれども、スピーカーを通して聞いたチェンバロの音には「ピンと来なかった」。転機となったのは、高校2年生の時、那覇市民会館で開催されたコンサート。初めて生のチェンバロの演奏を耳にした宮城さんは、「私はこれをやる!」とその場で決意した。

 チェンバロを学ぶため、東京音楽大学のチェンバロ科に進学。同大を卒業後、ベルギー王立ブリュッセル音楽院に3年間留学し、チェンバロのソロ(独奏)、アンサンブル(合奏)のプルミエ・プリ(一等賞)を取得した。

 帰沖後は、自宅でのサロンコンサートを中心に演奏活動を展開。演奏後に、宮城さんが手料理やワインを振る舞うアットホームなコンサートだ。「ベルギーでは、あちこちでホームコンサートをやっていた。ごくふつうの家の応接室に、ソファと一緒にチェンバロが置いてある。コンサートが終わったらワインやチーズを楽しみながら、おしゃべりする」。そんな空間を沖縄でも作っていきたいという思いからだ。

手間がかかる面も

 優雅な音色を響かせるチェンバロ。一方で、とても手間がかかる楽器でもある、と宮城さんは苦笑する。

 湿度や温度の変化に敏感で、音がすぐ変わってしまうため頻繁な調律は欠かせない。弦を鳴らす爪が折れたら補修の必要もある。メンテナンスはすべて自分で行うため、大変な労力を注がなければならないという。そう話しつつも、宮城さんは「手間がかかる子ほどかわいい」とチェンバロへの愛情をのぞかせる。

 今後は、子ども向けのコンサートや、ヴィオラ・ダ・ガンバ(16〜18世紀の擦弦楽器)やフラウト・トラベルソ(フルートの前身となった木管楽器)などの古楽器の普及やアンサンブルにも取り組みたい、と目標を語る。

 次の演奏の場は、毎年11月の第4日曜に開催しているバッハの「ゴールドベルク変奏曲」のホームコンサート。ことしは11月24日の開催を予定している。チェンバロの音色を間近に感じてみてはいかがだろうか。

(日平勝也)



〈 information 〉
宮城理恵子さんのコンサートの予定は、フェイスブックで発信。レキオの「あまくま情報局」でも、随時情報をお知らせします。
宮城理恵子さんのフェイスブック
https://ja-jp.facebook.com/rieko.miyagi.50

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チェンバロ奏者 宮城理恵子さん
県内唯一のチェンバロ奏者・宮城理恵子さん。自宅リビングにチェンバロが置かれ、演奏後にワインや食事をふるまうホームコンサートを定期的に開催している 写真・村山 望
チェンバロ奏者 宮城理恵子さん
チェンバロにはいくつかの種類があるが、宮城さんが所有しているのはフレンチタイプ。鍵盤は2段で、黒鍵と白鍵の色がピアノとは逆
チェンバロ奏者 宮城理恵子さん
チェンバロの弦。鍵盤は1本の弦と対応しており、1本ずつ弦をはじく
チェンバロ奏者 宮城理恵子さん
鍵盤と連動した爪(白い部分)で弦をはじいて音を鳴らす
チェンバロ奏者 宮城理恵子さん
爪はデルリンと呼ばれるプラスチック製だが、昔はカラスの羽軸などを使っていたという
チェンバロ奏者 宮城理恵子さん
チェンバロにはこまめなメンテナンスが欠かせない。宮城さんは、これらの道具を用いて、調律や補修もすべて自分の手で行っている
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