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[No.1787]

  • (金)

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「表紙」2019年08月01日[No.1787]号

看板一筋60年!
美芸舎看板店 宮城 良雄さん

ひたすら歩み続けた道

 宜野湾市大謝名で看板業を営む宮城良雄(76)さんは、絵を描くことが好きで、16歳のときに看板屋の見習いとして働き始めた。昼間は仕事、夜は沖縄工業高校定時制の機械科で学んでいたが、将来は機械関係の仕事よりも看板業に魅力を感じ高校を退学。見習いを経て24歳で独立した。英字の看板を手書きで仕上げていた復帰前から、パソコンが普及したあともひたすら歩み続けた60年。趣味だというほど仕事が好きな宮城さんに話を聞いた。

 宮城さんは那覇市安里の看板屋で16歳から3年間見習いとして働いた。その後、宜野湾市普天間の看板屋に転職し、24歳で同市大謝名に店を構え独立。当初は仕事がなく、石川市(現うるま市)や金武町、名護市へ出向きペンキが剥がれているのを見つけては「剥げているので塗らせてください」と声を掛け、仕事をもらった。

警察官の看板を寄贈

 沖縄が日本に復帰する前は「Aサイン」や、道路沿いに設置するタバコやビールの広告看板など、手掛けた仕事のほとんどが英字だった。

 復帰後、1975年に開催された沖縄国際海洋博覧会では会場内の看板を製作。87年の海邦国体では、宜野湾市からの依頼で市内競技場に設置する看板や各都道府県のプラカードも製作した。

 また、70年代に公開された日本の映画シリーズ「トラック野郎」がはやると、トラックや自家用車、バイクに絵を描いてほしいという注文が入るようになる。東京でエアブラシの技術を学んだ宮城さんは先駆者的存在で、その技術を使い龍の絵など派手なアートを施した。

 これまでさまざまな看板を手掛けてきた宮城さんだが、18年ほど前に現在の場所へ店舗を移転してから警察官の立て看板を製作するようになる。店舗前の車道で、ある光景を見たことがきっかけだった。

 車道には横断歩道があるにもかかわらず、近所の小学校へ通う子どもたちが手を上げて渡ろうとしてもほとんどの車が止まらなかった。通勤時間帯は特に車も多く危険だ。そこで宮城さんは警察官の看板を立てれば車が止まってくれるのではと考えた。さっそくベニヤ板で製作した看板を設置すると、車は止まるようになったという。

 通勤時にこの道を利用していた嘉手納署の警察官は、この看板を見て「どこで売ってるの?」と尋ねてきたといい、宮城さんは同じ看板を作り同署へ寄贈することに。さらに離島を含め県内全域の警察署へも贈ることになり、県の交通安全協会からは50〜60もの注文が入った。

 ちなみに、宮城さんの次男・雄平さんも高校生のときに警察官の立て看板を製作。父・宮城さんに手ほどきを受けながら出来上がった看板は、母・智枝さんの出身地である中城村の津覇駐在所に寄贈された。

 子どもに看板屋を継いでほしいか聞いてみると、「子どもたちにはそれぞれの生き方がある」としながら、「二代目として美芸舎を残してくれたらうれしい」と本音ものぞかせた。

手書きといえば…

 いまや手書きの技術がなくても成り立つ看板業界。宮城さんも時代に合わせ、パソコンやカッティングマシーンなどを導入し対応してきたが仕事は少なくなった。しかし、「手書きといえば宮城さん」というほど重宝がられている。塗装業者からは、壁面にアパート名や店名、社名などを書いてほしいとの依頼も多い。

 宮城さんは「前みたいにペンキ用の良い筆が手に入らなくなった」と話し、古い筆を手入れし大事に使っている。

 これまで5〜6人の従業員を雇っていたが、現在は妻の智枝さんと二人三脚だ。

 「もう、個人でやってるような小さな看板屋はもうからない。でも後悔してないよ。楽しかったしね」と振り返る。いまは看板業を「のんびりやってる。家族が食べる分だけもうけがあればいいさ」と笑った。

 看板一筋60年。これからも好きな仕事を楽しみながら、私たちに温もりを感じさせる手書きの技を見せてほしい。

(𥔎山裕子)



美芸舎看板店
宜野湾市大謝名5-10-10
☎098-890-4495

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美芸舎看板店
「美芸舎看板店」代表者の宮城良雄さん。警察官の看板は反射シート付きで、夜は特に本物の警察官が立っているようにも見える。通りがかりの人が警察官の看板と一緒に写真撮影することも (宜野湾市大謝名) 写真・村山 望
美芸舎看板店
作業中の宮城良雄さん
美芸舎看板店
宮城さんが製作した宜野湾市伊佐の58号沿いにある「琉球三線屋」の看板
美芸舎看板店
創業49年の「バー シンディ」(宜野湾市普天間)にあるAサイン。復帰前、宮城さんは米軍公認の飲食店などに与えられた営業許可証「Aサイン」の看板を数多く手掛けた
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