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[No.1650]

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「表紙」2016年12月08日[No.1650]号

父娘日和

父娘日和 36


ケーキの店 アルヴェール 店長 糸村 均さん
並里 薫さん

ケーキで笑顔を届けたい

 「アルヴェールのおじちゃん おいしいケーキ いつもありがとう」――。豊見城市豊崎のニュータウン一角に店を構える「ケーキの店 アルヴェール」。店内には、「アルヴェールのおじちゃん」こと、店長の糸村均(ひとし)さん(62)宛ての手紙や笑顔の子どもたちの写真が飾られている。送り主の多くは、食物アレルギーを持つ子どもと保護者。手紙には、糸村さんが焼き上げたアレルギー対応ケーキへの感謝がつづられている。接客やホームページの運営で父を支える娘の並里薫さん(38)は、「父が作るアレルギー対応ケーキをもっと広めていきたい」と笑う。



アレルギーの子もおいしく

 豊見城市豊崎、豊崎幼稚園の斜め向かいに立つ「ケーキの店 アルヴェール」。お店のドアを開けると、ショーケースには色とりどりのケーキが並ぶ。奥のキッチンからは、ケーキを焼くほのかな香りが漂い、子どもたちばかりでなく、大人まで思わず頬が緩んでしまう。

 アルヴェールには、県内各地、時には県外からもお客さんが訪れる。遠方から足を運ぶ人々の多くは、食物アレルギーの子どもがいる家族。「食物アレルギーがあるから、ケーキはあきらめていた」という子どもたちが、卵、牛乳、小麦を使わずにおいしく焼き上げる糸村均さんのケーキをほおばり、笑顔になる。

試行錯誤重ね改良

 「私は40歳の時に独立したんですが、最初のうちはお客さんからアレルギー対応ケーキを作ってほしいという要望があっても、お断わりしていたんです」と均さん。「でも、何回か要望が続いて、これは作らないといけないな、という気持ちになり、チャレンジしました」

 均さんは、今から14年前の2002年、県外から講師を招き、アレルギー対応ケーキの初歩を学んだ。

 「教えてもらったのは最初だけです。あとは独学で味を調えていきましたが、最初は失敗の連続でしたよ」

 アレルギー対応ケーキは、小麦、牛乳、卵の替わりに米粉や餅粉、コーンスターチ、豆乳、植物性油脂などを材料として用いるが、一般のケーキに近いおいしさに仕上げるには工夫が必要となる。

 糸村さんも、最初は『おいしくない』『売り物にならない』など、家族から厳しい意見を浴びたという。

 「ムカッと来ましたが、家族の言うことは当たっていましたから(笑)。それで、子どもが好きな味を出すためビターチョコレートを使ったり、生地が固くならないよう素材の配合を調整したり、いろいろな工夫を重ねて、ようやく自信を持って勧められるようになりました」

 ケーキの種類も徐々に増やし、今では、店頭に10種類以上ものアレルギー対応のケーキが並ぶ

同じ方向を目指して

 現在、アルヴェールは均さんと妻の育子さん(62)、長女の並里薫さん、薫さんの夫・政樹さん(38)の4人で営む。均さんと政樹さんがケーキを焼き、育子さんと薫さんが販売と接客を担当。薫さんはホームページの制作も担当し、父の店を支えている。

 4姉妹の長女として育ち、子ども時代から好奇心旺盛だったという薫さん。かつては大好きな旅行を仕事にと旅行業界に身を置き、専門学校で講師を務めるまでの経験を積んだが、結婚を機に、家業を手伝うようになった。

 「娘の接客は完璧。特に、お客さんに対する言葉遣いが上手なので、教わることも多いですよ」と父の言葉に、「私の方でも、ケーキの専門的な知識など、教えてもらうことが多いです。『アレルギーがある皆さんにもケーキを食べてもらいたい』という父の情熱はすごいですよ」と薫さんは答える。

 時には意見がぶつかり、父娘げんかをすることもあるという2人。「でも、最終的には同じ方向に向かっていきますね」と薫さんはほほ笑む。

 今後の目標は、「アレルギー対応ケーキのレパートリーを増やすこと」(均さん)、「『アレルギー対応ケーキといえばアルヴェール』といわれるよう、広めていくこと」(薫さん)。2人の足並みはそろっている。

 取材の終わりに、レキオのために均さんに特別に作ってもらったケーキをいたただいた。均さんの人柄がにじみでるような優しい味に、子ども時代のクリスマスの記憶がよみがえり、温かい気持ちになった。

(日平勝也) 



プロフィール

いとむら・ひとし
 1954年生まれ、久米島出身。高校卒業後、名古屋市内の洋菓子店に就職。4年の勤務を経て帰沖し、県内の洋菓子店で勤務。1994年、40歳の時に独立し、那覇市田原に「ケーキの店 アルヴェール」をオープン。2008年に現在の豊見城市豊崎に移転し、営業を続けている。2002年ごろから、卵・牛乳・小麦を使わないアレルギー対応ケーキ作りに精力的に取り組んでいる

なみざと・かおる
 1978年生まれ。高校卒業後、観光専門学校ircインターナショナルリゾートカレッジを経てリウボウ旅行サービスに就職。母校ircインターナショナルリゾートカレッジで講師を務めた後、再びリウボウ旅行サービスで勤務。結婚を機にアルヴェールの店頭に立ち始め、3人の男児の子育てに励みつつ、接客やホームページ制作を担当している

ケーキの店 アルヴェール
豊見城市字豊崎1-435
☎098-987-5515
営業時間 9時半〜20時、水曜定休
http://hwsa3.gyao.ne.jp/aluveil/

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糸村 均さん 並里 薫さん
今回のクリスマス特集号を記念して特別に作ってもらったレキオケーキを手に持つ糸村均さん、並里薫さん父娘=豊見城市豊崎「ケーキの店 アルヴェール」店内 
写真・村山望
糸村 均さん 並里 薫さん
薫さん1歳のころ、均さんと海洋博公園にて
糸村 均さん 並里 薫さん
アルヴェールの店内。約40種類近くの多彩なケーキや焼き菓子が並ぶ
糸村 均さん 並里 薫さん
均さんが作るアレルギー対応ケーキ。ラインアップは現在10数種類にのぼる
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