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[No.1637]

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「表紙」2016年09月08日[No.1637]号

父娘日和

父娘日和 23



沖縄長生薬草本社 代表取締役 下地 清吉さん
常務取締役 石川 多伽子さん

県産薬草 世界に広めたい

 薬用植物の宝庫といわれる沖縄で薬草の栽培から加工・販売まで広く手掛ける沖縄長生薬草本社。創業42年を迎えた同社は県内の健康食品業界の先駆的存在だ。下地清吉さん(71)は、幼いころから薬草の効能を身をもって体験し、早くからその可能性に着目してきた。薬草栽培の事業化を思いつく人もいなかった時代から、研究・栽培に尽力し、ついにはビジネスとして展開。多くの製品を開発してきた。娘の石川多伽子さん(41)は、父の事業をサポートし、新たな視点で商品を生み出している。沖縄の薬草を世界に広げることが目標だという親子に話を聞いた。



おばあから学んだ薬草の力

 宮古島で育った下地清吉さんの原体験は「おばあの力」だ。病気やけがの際には、薬草の効能に詳しい祖母や母が薬草を使って治療してくれた。「昔は病院が近くになく、先人たちから受け継がれた知恵が活用されていた」と清吉さん。植物のすごさに魅了されたという。

 18歳になると沖縄本島に渡り、兄が経営する電話線の埋設工事会社で働いた。薬草に触れ合うことなく過ごしていたある日、山に入って目にしたのは見覚えのある薬草。清吉さんは「これがやりたかったんだ」と我に返った。それからは、仕事の傍ら、記憶をもとに薬草の研究に没頭した。

 25歳で薬草の栽培を開始し、29歳で沖縄長生薬草を創業。だが、最初の10年間は苦労の連続だった。当時は、薬草で事業ができるなど信じる人はいなかった時代。「誰も薬草に見向きもしなかった」と振り返る。栽培していたウコンも認知度が低く、「こんな臭いものが体に良いはずがない」と毛嫌いされていたという。

 それでも妻と二人三脚で地道に活動を続けていく中で、利用者からの反響が続々と届き始めた。県外からの注文も入るようになり、会社は徐々に成長を遂げた。

商品開発にも従事

 薬草の栽培・販売に従事していた沖縄長生薬草だったが、妻で同社専務のマツ子さんの一言でさらなる転機を迎える。「原料だけを販売しても会社の名前が世に出ることはない。自分たちの商品を作りたい」。

 その後、商品加工技術の開発や設備導入に取り組み、「健命一番茶」や「福寿来A」「春ウコン粒」、「琉球酒豪伝説」など、ブレンド茶や健康食品をはじめとする数々のヒット商品を生み出した。現在、栽培する薬草は約800種類、開発した製品は80種類を超える。同社の敷地内には自社農場の他、工場や薬膳レストランも構えるまでになった。これまでの功績を評価され、農林水産祭・天皇杯の他、数多くの賞も受賞。栄養価の高い沖縄の薬草は海外からも注目を浴びるようになり、台湾や中国、タイ、韓国などへの海外輸出も本格的に展開している。

女性の視点で顧客層拡大

 娘の多伽子さんは、薬草に情熱を注ぐ父の姿を間近で見て育った。幼いころ、家族そろってドライブや遊びに出掛けた先は、薬草畑。「家族総出で雑草取りをしていた」と笑う。

 多伽子さんも父と同じく薬草の効果を自ら体験してきた。子どものころ、工事現場で釘が足に刺さった際、深さ約2㌢にも及ぶ傷を「父がクワズイモの茎をあぶって、病院に行かずに治した」と振り返る。

 現在、常務取締役として財務や営業管理、商品開発などを行う多伽子さん。琉球ハーブティーや飲む黒酢、ハトムギ商品、青汁など、美容にも焦点を当てた商品を開発。女性客の増加や年齢層の拡大など、新たな顧客の開拓にも貢献している。リゾートホテルなどのオリジナルティーの開発も行い、「喜んでもらえるのがうれしい」と話す。多伽子さんを「若い女性ならではのアイデアでさまざまなニーズを取り込んで開発してくれている」と父は評価する。

 今でも毎日畑に出るという、薬草一筋の清吉さん。そんな父に対して多伽子さんは「薬草に対する思いや探究心はすごい。苦労はしたけど、自分の好きなことに打ち込めてお客様にも恵まれ幸せ者だと思う」と語る。清吉さんは「植物は奥深く、解明されていないことも多くある。まだまだ研究をしたい」と商品作りへの意欲を見せる。

 親子の夢はさらなる海外進出だ。「幅広く海外展開をして、どこへ行っても長生薬草の商品だと分かってもらえるようになれば」という多伽子さんに、「世界中に出荷したい。もっと良い商品を開発するのが目標」と語る清吉さん。沖縄の薬草を世界に伝えるべく、親子の挑戦は続く。

(坂本永通子)



プロフィール

しもじ・せいきち
 1945年生まれ。宮古島市城辺出身。1974年に沖縄長生薬草本社を創業。薬草の栽培から、薬草ブレンド茶やウコン製品などの開発に取り組んでいる。農林水産祭での天皇杯受賞、ものづくり日本大賞優秀賞など受賞歴多数。著書に「琉球薬草誌」(琉球書房)。薬草利用研究会座長、和ハーブ協会顧問、県健康産業協議会会長など歴任。3男1女、7人の孫に恵まれた

いしかわ・たかこ
 1975年浦添市生まれ。日経ビジネス工学院を卒業後2年間リース会社の経理をし、長生薬草本社へ就職。1997年に結婚。2005年アロマコーディネーターを取得、その後アロマ関連商品のブランドを立ち上げる。2016年アーユルヴェーダーアドバンスを取得。現在ハーブの企画や商品開発を担当。リゾートホテルのオリジナルティー開発などにも携わっている。高校3年の息子、小学6年の娘の母

沖縄長生薬草本社
南城市佐敷字仲伊保116-1
☎098-947-3214
https://www.cho-sei.co.jp/
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下地 清吉さん 石川 多伽子さん
本社近くにある春ウコン畑に立つ下地清吉さん(左)と娘の石川多伽子さん。無農薬、有機栽培に徹底した薬草の栽培管理を行っている=南城市佐敷  
写真・村山 望
下地 清吉さん 石川 多伽子さん
(左から)浦添市の自宅でくつろぐ4歳の多伽子さん、清吉さん、長男の清隆さん
下地 清吉さん 石川 多伽子さん
(左上から時計回りに)妻のマツ子さん、次男の隆彦さん、長男の清隆さん、5歳の多伽子さん
下地 清吉さん 石川 多伽子さん
妻のマツ子さん(左)は自ら営業に出向いたり、全国の沖縄物産展を回ったりして清吉さんを支えた
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