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[No.1600]

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「表紙」2015年12月17日[No.1600]号

母娘燦燦

母娘燦燦 — おやこ さんさん — 38

琉球郷土料理・イラブー料理 カナ
店主 我謝 藤子さん イズミ・ホプソンさん

「ヌチグスイ」絶やさずに

 滋養強壮の食材として古くから珍重されてきたイラブー(エラブウミヘビ)。そのエキスがたっぷり溶け込んだイラブー汁を提供しているのが「琉球郷土料理・イラブー料理カナ」だ。手間暇を要するイラブー汁は、現在は作り手も少ない沖縄の貴重な伝統料理として知られている。店主の我謝藤子さん(81)が夫の孟諄さんと同店を始めた1981年以来、おいしく食べられるイラブー料理を追及してきた。一昨年末に店を閉じたものの、娘のイズミさん(45)夫婦の協力を得て再開。家族で新たなスタートを切った。



家族の協力で営業を再開

 北中城村屋宜原の「琉球郷土料理・イラブー料理 カナ」が今春再びオープンした。34年前の開店以来、多くの人に愛されてきた同店は、店主の我謝藤子さんが体調を崩したため、一昨年末に閉店したが、娘のイズミ・ホプソンさんが母の店を継ぐ決意をし、再開にこぎつけた。現在、夫のアレックスさんとともに藤子さんを支えている。

 アメリカ人のアレックスさんとの結婚を機に、渡米したイズミさん。年に2、3カ月は帰省して店を手伝っていたが、継ぐことなど考えてもいなかった。店は開店2年目から国内外の多くのメディアで取り上げられるようになり、有名になっていった。両親から店を継いでほしいと言われたことはなかったが、一人娘のイズミさんには重荷になっていく。重圧で涙する日もあった。そして、約10年前に意を決して「私には継ぐのは無理。ごめんなさい」と泣きながら母に伝えた。



母の料理 残したい

 「やっと肩の荷が下りた」というイズミさんを変えたのは、一昨年の帰省中に行われたある取材だった。閉店を知った料理研究家たちが、藤子さんの料理を後世に残したいと、イズミさんの帰省に合わせて撮影に来た。最後の一言を求められた藤子さんが考え込んでいると、イズミさんが助け船を出した。「一言なら、お母さんのご飯を食べて、喜んでくれた人たちへの、感謝の気持ち『ありがとう』じゃない?」。その瞬間、「カナ」が終わるという実感が湧いてきた。同時に、悔しさや寂しさ、自分への情けなさが込み上げ、イズミさんはその場で号泣してしまう。そのときから、気持ちが動き始めたという。

 結婚前から、「カナを継げるのはイズミしかいない」と言い続けていた夫のアレックスさんも後押しした。今では、自身の仕事の傍ら母娘を支える、なくてはならない存在だ。

 1981年、藤子さんは、フランス料理人の夫、孟諄(もうじゅん)さんと同店をオープンした。開店準備中に友人が作ったイラブー汁を見て、「元気になるものなら」とメニューに入れたものの、それまでは一度食べたことがある程度。レシピもなく、耳から入ってきた情報を基に試行錯誤を繰り返した。よく洗ったイラブーの薫製をゆで、一つ一つ骨抜きをし、かつおだし、昆布、テビチなどと一緒に煮込んでいく。当時、料理は2日がかり。アクを取るため、24時間鍋につきっきりだった。「眠くなるとしょうゆや塩を口にして目を覚ましていた」と振り返る。

 イラブー汁はヌチグスイ(命の薬)として、古くから伝わってきた料理。薬膳の効能を求めてくる客も多かった。中には「薬ちょうだい」と言う人もいたという。初めは「過信しすぎではないか」と答えていたが、顔色の悪い人の血色が良くなっていくのを目の当たりにした。イラブー料理をリーズナブルな価格で提供し続けているのは、必要とする人に気軽に利用してほしいからだ。

最高の味求め続け

 味にもこだわった。イラブーの脂は酸化しやすく、臭みも出やすい。臭みをなくし、おいしいイラブー汁を提供できるよう、食材や調理法にも研究を重ねた。味の評価も高いが、「完成したとは思っていない。最高を求める限り終わりはない」という藤子さん。客の喜ぶ姿を生きがいに、常に上を目指す気持ちを持ち続けている。

 今ではすべての料理の味見を任されているイズミさんに対して「数年前に引退した父親譲りの確かな味覚を持っている」と藤子さんは太鼓判を押す。

 「母を超えることはできない」というイズミさん。「母の料理を食べて喜んでくれる人が好き。母があってのカナで、母とカナがあっての私」という。

 緊張しながらも初めて口にしたイラブー汁は、かつおだしのきいた濃厚なスープで、臭みやクセはない。体が芯からぽかぽかしてくるのを感じる。心も体も温かくしてくれる「母の味」。家族の絆で貴重な食文化を守り続けてほしい。



プロフィール

がじゃ・ふじこ
 1934年本部町崎本部生まれ。1952年名護高校卒業。那覇市の幼稚園勤務の後、東京保育女子学院に入学。卒業後、幼稚園教員などに従事。同じ教会に通っていた孟諄さんと1969年に結婚。1981年に「カナ」を那覇市久米町にオープン。2000年に現在の場所に移転

いずみ・ほぷそん
 1970年那覇市生まれ。小禄高校卒業。沖縄大学短期大学部卒業後は、両親の店の手伝いをしながらDJなどの活動を経験。1998年に沖縄で出会ったアメリカ出身のアレックスさんと結婚。16年間のアメリカ暮らしを経て、昨年末に夫婦で帰沖。2人で母の店を支えている

琉球郷土料理・イラブー料理 カナ
中頭郡北中城村屋宜原515−5
☎098-930-3792
営業:火曜・水曜・金曜・土曜日(+不定休)
18:00〜21:00(閉店:22:00)
※予約制



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我喜屋 梨枝子さん我喜屋 真由美さん
「イラブー汁定食」を前にする我謝藤子さん(右)と娘のイズミさん。手前に置かれているのはイラブー汁に使われるイラブーの薫製。店には、イラブー料理や琉球料理を求めて国内外の観光客や地元の人たちが訪れる=北中城村屋宜原の「琉球郷土料理・イラブー料理 カナ」
写真・村山 望

我喜屋 梨枝子さん我喜屋 真由美さん
厨房に立つ、(左から)アレックスさん、藤子さん、イズミさん。3人のうち誰かが欠けたらできないという。
我喜屋 梨枝子さん我喜屋 真由美さん
アメリカ・ニューヨークで行われたアレックスさんとイズミさんの結婚式には、日本から藤子さんと孟諄さんも駆け付けた
我喜屋 梨枝子さん我喜屋 真由美さん
イラブー定食(3500円)。イラブー汁の他、フーチバージューシー、ウカライリチー、ジーマーミ豆腐、モズク、漬物が付く
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