沖縄の日刊新聞「琉球新報」の副読紙「週刊レキオ」沖縄のローカル情報満載。



[No.1530]

  • (金)

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「表紙」2014年08月07日[No.1530]号

RED OKINAWAカラー 19

OKINAWAカラー 19

染織工房バナナネシア 福島泰宏さん、律子さん

芭蕉の命を作品に

 褐色の紙に彩り豊かな紅型の図柄。今帰仁村謝名で、染織工房バナナネシアを構える福島泰宏さん(58)・律子さん(54)夫妻の作品だ。泰宏さんは、原料となる糸芭蕉を栽培から手掛け、芭蕉紙と芭蕉布を生み出す。野に咲く薄紫の花や赤紫に輝く山々など、沖縄の風景や動植物をデザインするのは律子さんだ。炎天下での畑仕事、繊維を煮出し、糸をつむぎ、紙をすくなど地道な手作業による工程を経た作品は、伝統工芸に新たな風を起こしている。



深い愛情映し出す

 埼玉県出身の福島泰宏さんが、沖縄の伝統工芸に興味を持ったのは大学生の時。「琉球の伝統文化を学びました。その中で、地域の人たちの生活に密接に関わる芭蕉布に携わりたいと思ったんです」
いつかは沖縄で生活をし、地域に根差した工芸・文化を肌で感じたいと思っていたという。

 デザイン学校で学ぶ長崎県出身の律子さんとアルバイト先で出会い、結婚。芭蕉布の里・大宜味村喜如嘉に1985年、1年掛かりで家を探し、引っ越した。

 泰宏さんは、芭蕉布制作の修行と生活を両立させるために後継者育成事業の窓口を訪ねた。「『男性は芭蕉布はやらないよっ』て最初断られました。でも地域の方たちのお手伝いをしながら教わろうと思って」

 芭蕉布・紙の基になる糸芭蕉の栽培は、重労働だという。「繊維を取れるようになるまでに、3年半掛かるんです。だから数を増やして1年中収穫を可能にしなければならない。下草の処理や台風対策、収穫、移動などは、女性には大変でしょう」

 人間国宝の平良敏子さんに3年半師事し、芭蕉に一から取り組んだ。娘3人に恵まれたが、修行の身では生活は苦しかった。「ちょうどバブルの終わりごろでね、季節労働にもよく行きましたよ」と二人は当時を振り返り笑う。

 それでも、芭蕉作りを諦めなかった。泰宏さんは、地域の人たちと協力しながら、糸芭蕉を自身の手で育てるところからこだわり、今では約700坪の畑と工房を行き来する日々だ。



二人三脚で作業

 92年に読谷村座喜味に居を移した。

 「芭蕉布を作る工程で、布にはできない粗めの繊維が残るんです。一生懸命育てた糸芭蕉を無駄にしたくないという気持ちが強くて、2001年に紙すきを始めました」

 夫の奮闘を最も近くで見ていた律子さんは、芭蕉紙に、同じく沖縄の伝統工芸である紅型をデザインすることを提案する。技術支援センターなどで2年半修業し、約10年前からポストカードや壁掛けなどに沖縄の鮮やかな自然を映し出している。

 「私の作品は、実際に見たもの、触れたもののスケッチを基にしています」と律子さんが話すと、かたわらの泰宏さんが、「この人、あまり魚が描けないんですよ」と合いの手を入れる。「だって、あんまり見たことないのよ、魚は」と二人で笑い合う。

 律子さんのデザインは、最初に型を彫り、のりを乗せてから色を乗せる「型染め」の方法を用いる。作品は、同じ型でも色彩によって印象が全く違う。



多様性が魅力

 「芭蕉は、繊維の持つ多様性が魅力なんですよ」と語る泰宏さん。芭蕉は、外側の繊維が硬く、中心部にいくにつれて軟らかくなる。布に仕立てる場合は、それを細かく10数種類に分類する。しなやかな着物地、男性の帯、女性の帯、タペストリー、テーブルセンターなど、繊維の持つ性質を見ながら作り上げる。

 「繊細な和装から丈夫な生活用品まで用途が広いんです」

 二人の作品は、県内外で評価され、百万単位の反物もある。「でも、たんすにしまっておくのではなくて、生活の中で着て、飾ってほしい。芭蕉が生きていた証しというとオーバーかな?」と自身の作品に目をやりながら話す。

 8月、今帰仁村謝名に工房をプロと共に手作りし、制作に集中する環境を整えた。

 「今後は、世界中で作られている芭蕉の作品を見て刺激を受けたい。そして、作り手とのネットワークを構築したいんです。まだまだ修行中ですから」。そう話す二人の中には芭蕉への深い愛情が詰まっている。

島知子/写真・村山望(新星出版)

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福島泰宏さん、律子さん
福島泰宏さんがすいた芭蕉紙に律子さんが紅型をほどこした作品=今帰仁村謝名の染織工房バナナネシア
福島泰宏さん、律子さん
芭蕉の栽培から仕上げまで泰宏さん1人で行う
福島泰宏さん、律子さん
用途によってさまざまに染められた糸
福島泰宏さん、律子さん
糸をしめらせながら強度を上げる
福島泰宏さん、律子さん
工房見学の相談も受け付けている
染織工房バナナネシア
今帰仁村謝名697-3
☎0980-56-3020
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