「表紙」2013年08月29日[No.1482]号

情熱アチコーコー 22(2013年08月29日掲載)
手動車いすサッカークラブ about
誰でも平等に競技を
「いけー」「止めろー」と勢いのある声が浦添市の「サンアビリティーうらそえ」の館内に響き渡る。直径約50㎝の大きなサッカーボールを追いかけるチーム「about(アバウト)」。年齢、性別、障がいの有無は関係なく受け入れるという意味だ。小学生から20代までの若いチームで、障がいのある人もない人も一緒に練習している。「蹴るのは反則」など独特のルールがある車いすサッカー。「誰でも平等に楽しめるスポーツです」と代表の新里透久(ゆきひさ)さん(23)は話す。
障がいに合わせルール変更
車いすサッカーは、フットサルに近い。大会によっては前半、後半の計8分に分けたり、10〜15分の一本勝負になったりする。サッカーだが、足で蹴ることは反則。大きなサッカーボールは基本的に手で転がしてゴールまで運ぶ。車いすで当てるのもOK。
基本的なルールはあるが、出場者の障がいに合わせて変更ができるのも魅力。仮に半身まひがある人は、片手しか使えないため、片足を使っても良い。あらかじめ審判に報告して許可を取らなくてはならない。「互いに認め合い、平等に競技する」ことがルールだ。
代表の新里さんは生まれつき障がいがあり、仲間5人で時々集まって車いすサッカーをしていた。「試合に出たい!」という気持ちが高まり2005年に「abou t」を結成。
試合は4〜6人制で、体育館の大きさによって決まる。出場するには人数が少なく、厳しい状況からスタートした。現在は、メンバー18人。練習試合もでき、和気あいあいと楽しんでいる。
作戦は「力を合わせる事」
毎週日曜日に浦添市にある「サンアビリティーうらそえ」で12時から2時間練習している。競技用の車いすは館内にある車いすを使用。車いすバスケット用を、座高を低くして使っている。電動車いすは生活用なので、競技で使用するには少し難しいようだ。「ボタンやギアを上手く操作しながら動かないといけないので、最初は苦労しました」と車いすサッカー歴10年の金城陸大さん (20)は苦笑いで話す。
サッカーボールは大きいだけではない。一見バランスボールのようだが重くて固いので、当たると衝撃があり痛い。車いすのタイヤを回しながら手で転がすのは並大抵のことではない。1ゲーム15分を走り続けると腕がパンパンになる。非常にハードだ。
チームにレギュラーや補欠はなく、作戦を決めずに試合に挑むことも多い。「誰を中心に攻めるのか」を決めたら、後は試合に出る全員が力を合わせて勝負する。
車いすサッカーは全員が攻撃、守備に携われる。そのためにゴールキーパーにはスピードのある人が選出されるようだ。障がいの重い人はゴール前でシュートのタイミングを待つ。それぞれが役割を理解してプレーする。今年7月に行われた「アビリティー杯車いすサッカー大会」では優勝を果たした。その他の大会でも3位内入賞を多く重ねている。
13歳のキャプテン
高校生以上の20代が多いチームだが、キャプテンは13歳の喜納景大さんが務めている。新里さんは喜納さんを抜てきした理由について「年齢や経験は関係なく決めました。彼はしっかり周りを見てプレーすることができるし、存在感があってチームにまとまりが出てくるんです」と話す。
今年からキャプテンとなった喜納さんは、兄の泰寛(たいかん)さん(16)に知的障がいがあり、妹の徳子さん(11)と3人でチームに所属。「『キャプテンをやってほしい』と言われたときはビックリしました。どこまでできるかは分からないけど、頑張ろうと思います」と喜納さん。照れながらもハッキリ答えてくれた。試合中は、プレーの技術が高いのはもちろん、常にメンバーに声をかけている。
「喜納君はキャプテンになってさらに意識が高くなり、頼もしくなりました」とうれしそうに話す新里さん。それぞれが個性を発揮して、チームの結束が強くなっているように感じられた。
今後の目標は、大会で3冠を取ること。他チームに対して、aboutは障がいのある人が多い。「その中で3冠を取って、みんなで喜びを分かち合いたいです」と新里さん。
年齢、性別、障がいの有無に関係なくみんなが楽しめるスポーツの「車いすサッカー」。ハンデもなく平等にできるルールがあり、スポーツの理想とする形がそこにあるように思えた。
普天間光/写真・呉屋慎吾




2005年に結成。メンバー18人。小学生から20代まで幅広く参加している。毎週日曜日の12時から14時まで練習(スケジュールを変更する場合あり)。年間約3回の大会に参加。メンバー随時募集中。体験、見学者も大歓迎。okinawaabout@gmail.com(新里)