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[No.1475]

  • (金)

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「表紙」2013年07月11日[No.1475]号

あちこーこー 15

アチコーコー 15(2013年07月11日掲載)

船舶模型の会・アンカー

大航海時代に思いはせ

 精巧な船舶模型を手に、笑顔の男性たち。「船舶模型の会・アンカー」は、沖縄で物資の輸送に欠かせなかった馬艦(マーラン)船や歴史に残る世界の帆船などの模型作品を通じて、海への憧れを表現する。「今の子どもたちは、船に乗ったり触れたりする機会が少ないでしょう。模型を通じて魅力を継承していきたいんですよ」と事務局の東江(とうえ)正則さん(57)は話す。貴重な資料などから本物に忠実に図面をおこし、ミリ単位の細かいパーツも手作りにこだわっている。作品に込めた思いを聞いた。

船にロマン乗せて

 毎月第3日曜日の定例会の日。南城市玉城中央公民館にそれぞれに作品を持ち寄り、模型談義に花が咲く船舶模型の会・アンカーのメンバー。会長の喜名朝徳さん(75)が誇らしげに手にするのは、かつて物資を積み、沖縄の南北を行き来した馬艦船。副会長の糸数昌信さん(62)が大事に抱えるのは、世界を航海した帆掛け船だ。「会員それぞれ好みが違い、こだわりも違います。楽しいですよ」と喜名さんは話す。

 1991年、前会長の故・宮城亀次郎さんが掲載された新聞記事がきっかけで愛好家同士連絡を取り合い、会が発足。翌92年に第1回展示会を開催すると、さらに輪が広がった。

愛情と忍耐が必要

 96年の第10回からは「海の日」を含む日程で毎年1回展示会を行っており、28回目のことしは13日㈯から19日㈮まで浦添市役所で開催する。現在、会員は12人。40代から70代と幅広い。

 「船舶模型作りには、手先の器用さより船に対する愛情と忍耐が必要なんですよ」と笑う喜名さん。まず図面もないところからインターネットなどで情報を収集。「市販の制作キットも参考にはするんですが、僕たちはくぎの一本まで手作りしたいんですよね」と糸数さん。ロープの太さや張り具合、船に積んだ救命ボートやアンカーなど、実に細かい作業の積み重ねだ。

 模型をより本物に近づけたいと、県外・海外に「船を見るために」出掛けることも。「神奈川県横須賀市の荒崎造船所では、日本のクラブチームのボートをたくさん見せてもらいました」。イギリスの海事博物館では現役の軍艦に乗せてもらい、構造や全体像、トイレの位置まで見学して記録し、会員で共有した。「外国はやっぱりスケールが違いますね。ヨーロッパは船の保存状態がとても良くて勉強になりました」と糸数さんは話す。

海の大切さ伝えたい

 退職後や仕事の合間に作品作りを続けるメンバーたち。「作り始めてもね、悩んじゃってしばらく放っておいて、また取り掛かって、またしばらく離れて…の繰り返しですよ」。恋愛みたいですね、と水を向けると照れたように大笑い。「作品にもよりますが、一つ仕上げるのにトータルで200日ぐらいかかりますね」。その期間、悩んだりワクワクしたりしながら作品と向き合っている様子が目に浮かぶ。

 「でもね、一生懸命頑張って仕上げても、家族には褒められないどころか邪魔扱いされています」と、宮城武治さん(57)が打ち明けると、「そうそう、置き場所を取るからね」「仕上げまでの期間が長いしね」「ほこりかぶるのも嫌みたいね」と一同次々に口にする。「だから、この会と出会って良かったんですよ」との東江さんの言葉に大きくうなずいた。

 「展示会を続けるのは、作品発表の意味ももちろんありますけど、見た人が海に関心を持ってもらえたら、と思っているんですよ」。離島県の沖縄は、船が生活の足として欠かせない半面、飛行機などの利便性が高まり、船に乗ったことがない、乗る機会のない人も増えている。「海に囲まれた沖縄だからこそ、特に子どもたちに船の文化を継承したいんですよ。沖縄では海路は命綱だったでしょう。そういう歴史も若い人に伝えていきたいんです」と、糸数さんは自身の馬艦船を見つめながら言う。

 大航海時代、先祖がこぎ出した世界の海への憧れ。それをメンバーは模型船だけでなく紙芝居やオブジェなどでも表現する。今、この船に乗って旅したらどんな感じだろう。嵐に合ったり凪だったり、さまざまな表情の海と出合えるんだろうな—海に憧れる男のロマンがメンバーに共通している。

(島 知子)



船舶模型の会・アンカー
それぞれの作品を手にする船舶模型の会のメンバー。(左から時計回りに)宮城武治さん、喜名朝徳さん、東江正則さん、向山均さん、糸数昌信さん=南城市玉城富里の市玉城中央公民館
船舶模型の会・アンカー
沖縄の物流に欠かせなかった馬艦船を再現
船舶模型の会・アンカー
細部までこだわった作り。部品も手作りする
船舶模型の会・アンカー
コロンブスによる初の大西洋横断航海で使われたサンタマリア号の模型
船舶模型の会・アンカー
 船舶模型の会・アンカー
 1991年、愛好家が集まり発足。毎月第3日曜日の16時〜18時、南城市玉城中央公民館で定例会を開き、毎年1回展示会を開催する。ことしは13日(土)から19日(金)まで浦添市役所で開催。会には模型船作りは初めてという人や作り始めたばかりの人、船をモチーフにした作品を作りたいという人も気軽に参加できる。アクリルケースの作り方や糸のこを使った作品作りも伝えている。
問い合わせは☎070(5817)5962〔東江(とうえ)〕
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