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[No.1467]

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「表紙」2013年05月16日[No.1467]号

あちこーこー 7

アチコーコー 7(2013年05月16日掲載)
貝細工作家 上原正五郎さん

「宝物」集めてつなぐ

 「欠けた貝にも味わいがあるんですよ」。上原正五郎さん(77)=那覇市小禄=は、貝やサンゴ、ガラスなど海岸の漂着物やピスタチオの殻などを集め、壁掛けやランプシェード、タペストリーなどに仕立てる達人。集めた材料は丁寧に洗い、大きさ、色、形別に細かく分類し作品に仕上げる。「小さい頃から自然が遊び相手。今の子どもたちにも、足下にある宝物に気付いてほしいんですよ」と話す。作品を一つ一ついとおしそうに眺めながら、「拾った場所も全部覚えていますよ」とほほ笑む表情は少年のようだ。

根っからの凝り性

 一家で農業を営むために、移民先のフィリピンで幼少期を過ごした上原正五郎さん。「何もかもある時代じゃなかったから、鳥やトンボを追ってジャングル駆け回って遊びました」と懐かしむ。

 9歳で両親の出身地・那覇市小禄へ帰郷。20歳で輸入品配達の仕事に就いた。体を酷使する毎日だった。「でも、フィリピンでの思い出があったからか、自然散策が好きでね。ヤンバルの山はほとんど登りましたよ。新緑の季節に美しい所、夕暮れに映える海辺など、素晴らしいポイントは30年以上掛けて見付けて歩きました」

 上原さんの収集歴は、そんな日常の延長にあった。40歳を過ぎて腰痛がひどくなり、リハビリのためにお気に入りの海岸を散歩するのが日課になったのがきっかけだった。「ふと、波に洗われた貝を手に取ってみたんです。しみじみ眺めると、美しい模様や個性的な色をしていて面白いなーって」

みんな違う個性

 小さな小さな貝にロマンを感じ、欠けたかけらの造形美に感嘆した。それからは県内各地の砂浜を巡り、貝やサンゴ、流木などを収集。これら「宝物」をどうにかして後生に残したい—。その結果が壁掛けやランプシェードなどの作品群だ。

 5ミリにも満たない巻き貝や砂に埋まり表面が欠けた二枚貝も丁寧に洗い、大きさ、形、色別に分類する。「欠けているからって価値がないわけじゃないんですよ。似たもの同士きちんと分類すれば、また個性的な作品になります」。丸や四角の発砲スチロールに円や放射状に接着剤で貼り付けられたデザインは「集めた素材を眺めていると、自然とアイデアが浮かぶんですよ。それに、一度壁に掛けてみて晩酌しながら眺めていると、あい、サンゴで囲ってみようかな、とか思ったりして。終わりがないんですよ」と笑う。漂着物だけでなく、ピスタチオの殻なども取り入れ、コツコツと試行錯誤を積み重ねてきた。「たまに販売したらと勧められるんだけど、手放せませんね。素材一つ一つと出合った場所も全部覚えているから」

 「根っからの凝り性」な側面は別にもある。腰痛の治療のために51歳で水泳を始めたことを端緒に、54歳でトライアスロンに初めて出場したのだ。「出るからには65歳までは毎年出場すると決めて、あちこちの大会に参加しました」とうれしそうに話す。

経験は線でつながる

 「できるか分からないからやらない、というのは好きじゃない。できるところまではやってみようっていつも思っていますよ」と話す尽きない好奇心が、貝細工作家としての顔であり、アスリートでもある一面に表れている。

 「経験は点じゃなく線でつながっていくから、若い人ほどいろんなことにどんどん挑戦した方がいい」。継続することは苦労じゃなく楽しみ。そう、この家いっぱいの宝物も、鍛え上げられた肉体も精神も、一朝一夕では得られない、上原さんのオリジナルだ。

 「物事は一方向の見た目ではなくて、あちこちから眺めたり、拡大鏡持って見たり、ね、面白く思えてくるでしょう」といたずらっぽく笑う上原さん。その手から編み出される今後の作品も楽しみだ。

(島 知子)



貝細工作家 上原正五郎さん
発泡スチロールに貝やガラスを張り付けた壁掛けを手にご満悦の上原正五郎さん=那覇市小禄の自宅
貝細工作家 上原正五郎さん
形や色、大きさをそろえて
貝細工作家 上原正五郎さん
リビングが華やかに
貝細工作家 上原正五郎さん
貝やサンゴを使ったランプとピスタチオの殻を花びらに見立てたオブジェ
貝細工作家 上原正五郎さん
うえはら・まさごろう 1936年1月1日、フィリピン生まれ。
8人きょうだいの5男。腰痛のリハビリのために通った海岸で貝の魅力に取りつかれた。以来、コツコツと素材を集めては壁掛けやランプシェード、タペストリーなどに仕立てる。自宅のリビングや和室はもちろん、トイレの中も作品が飾られ、にぎやか。それらを眺めながらの晩酌も楽しみの一つと笑う。
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