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[No.1453]

  • (金)

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「表紙」2013年02月07日[No.1453]号

沖縄を食べよう 32

沖縄を食べよう 32(2013年02月07日掲載)

大原 大幸さん(45)

バジル(南城市)

より良い「香り」求めて

 バジル。イタリア語ではバジリコ、和名は「メボウキ(目箒)」。和名の由来は種子を水につけた際に分泌するゼリー状の物質で目の汚れを取っていたからだといわれている。南城市佐敷にそのバジルを丹精込めて栽培する大原大幸(ひろゆき)さんのハウスがある。中には腰までの高さに育ったバジルの木が整然と並び、すがすがしい香りで満ちている。「良い香りでしょ? バジルは味や食感はもちろんですが『香り』が重要なんですよ」と大原さんは語る。もっと香り高いバジルを生産するにはどうすべきなのか? 試行錯誤の毎日なのだと柔和な顔に人なつっこい笑顔が浮かんだ。

ハーブを身近な存在に

 大原さんは静岡県出身。飲食店管理業務などを行う会社に勤め、平穏に暮らしていたが、妻の多美子さん(40)との結婚を機に、2005年、38歳で石垣島に夫婦で移住。「静岡の暮らしに飽きてしまって。石垣にも仕事はたくさんあるって妻が言うものですから」と当時を振り返る。

 島での生活もなれてきた矢先の06年、多美子さんが妊娠。出産のための環境を整えたいと本島へ引っ越した。「東京で不動産業を営む義兄が、本島にある物件の管理をする人を探していたのもあって、渡りに船でした」

 39歳で再び転職。不動産業に就く。「管理物件の中にホテルがあって、サービスの一環として自家製野菜を客に提供しようと農業について調べだしたんですよ」と大原さん。当初、人を雇って行うつもりだったが、「学べば学ぶほど、農業って面白い! って思うようになって」。気持ちを抑えきれなくなった彼は、わずか1年で、農家への転身を決意。県の新規就農者支援事業に申し込み、夫婦そろって農家での研修をスタートさせた。

 研修先は野菜農家に限らず、果樹や畜産などさまざま。「作業着に牛ふんをつけたまま昼飯を食べたこともありましたね」と笑顔が浮かぶ。その後、知人の紹介で土地を借り、41歳で農家としてスタートを切った。

 バジル栽培を決めた理由はある思い出だと彼は言う。「もともと、食べることが好きで、若いころは料理指南書を買って、いろいろ作ってました。レシピにたくさんフレッシュハーブが出てくるんですが、そのころ、フレッシュは手に入りにくくて悔しかったことを思い出したんです。当時に比べれば今は手に入りやすくなってます。でも、まだまだ一般のスーパーで売られている種類は限られていますよね。だったら、自分の手でフレッシュハーブを作って、もっと身近な存在にしたいなと思ったんです。それで、まずは代表的なバジルから始めたんですよ」

 バジルは、夏に種をまき、11月〜4月が収穫期間だ。その間はいかに木を大きく育て、たくさん葉を出させるかがカギになる。ハーブは水耕、土耕のどちらでも育つが、「バジルの場合は土で育てた方が品質が良い、強い木になるんですよ。もちろん香りも。だから土作りが大事。家庭菜園でも作れるって思われるかもしれませんが、なかなか大変なんですよ」と語る。

 苦労はそれだけではない、バジルの葉は水に弱く、ぬれた状態で収穫するとすぐにダメになる。気温の変化で葉の表面に水分が付くことを防ぐため、日のある内に収穫しないといけない。太陽が沈んだ後からパック詰めなどの出荷準備が始まる。繁忙期の作業は深夜にまで及ぶことも多い。それでも5年間、休むことなく畑に心血を注ぎ続けてきた。約430坪だった畑は、今では約2200坪に広がり、収穫量は約2㌧を数えるまでになった。

 次の目標はと尋ねると「栽培するハーブの種類を増やすことですね。今年はショウガに取り組むつもりです。ショウガもハーブの一種なんですよ。ハーブは『葉』『根』『花』の三つがあるんですけど、『花』は食べられないんで、食いしん坊としては食べられる『根』が良いなと思って」。そう、少し照れながら答えてくれた。


佐野真慈/写真・佐野真慈



大原 大幸さん
自慢のバジルを前に満面の笑みを浮かべる大原大幸さん=南城市佐敷
大原 大幸さん
プロフィール
 おおはら ひろゆき 1967年生まれ。静岡県出身。
 2005年に夫婦そろって石垣島に移住するも、妻・多美子さんの妊娠をきっかけに本島へ再移住。40歳で農家を目指し、県の新規就農者支援事業のもと、研修を重ね、41歳でバジル農家として再スタートを切る。現在では約2200坪の畑を管理し、収穫量はおよそ2㌧。品質の評価も高く、県内イオングループのほとんどのスーパーで販売されている。
大原 大幸さん
☆大原さん家のオススメレシピ☆
バジルソースのパスタ
 バジルの葉(50g)、オリーブ油&植物油(3:7の割合で100〜150g)、にんにく(1かけ)、松の実(大さじ1)、粉チーズ(大さじ1)、塩適量をミキサーにかけバジルソースを作る。あとはゆで上がったパスタに絡めさっと炒めるだけ♪ バジルのすがすがしい香りが口の中にあふれて、おいしいですよ?。ソースの材料の割合はお好みで調整してくださいね。
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