沖縄の日刊新聞「琉球新報」の副読紙「週刊レキオ」沖縄のローカル情報満載。



[No.1450]

  • (金)

<< 前の記事  次の記事 >>

「島ネタCHOSA班」2013年01月17日[No.1450]号

犬も保育園に通う?

 この間ドライブをしていたら、「いぬの保育園」と書かれた大きな看板を見つけました。中に入ろうとしたのですが、勇気がなく断念してしまいました。調べてもらえませんか?(那覇市 K・Iさん)

犬も保育園に通う?

 犬の保育園…。とてもユニークですが、本当にあるんでしょうか。「いぬの保育園」という名前の普通の保育園なのでは? …いや、そんなことはないか。お昼寝の時間とかあるのでしょうかね。う~ん、全然想像できないぞ!
 とりあえず、行ってみましょう!

「共存」を学ぶ

 やってきました。那覇市首里平良町にある「いぬの保育園ワン,S」です。確かに、いぬの保育園と書かれた看板があります。早速、どういう所なのかを園長の新垣ひろ子さんに聞いていきたいと思います。

 新垣さん、ここは本当に人間ではなく犬の保育園なのでしょうか?

 「はい。そうです。忙しい飼い主さんのサポートや、ワンちゃんの成長に必要な教育をする保育園です。NPO法人の『ワン,Sパートナーの会』という、ワンちゃんのために活動する人たちが主体となって預かった犬の世話をしています」

 やはり本当に犬の保育園だったのですね。県内では珍しい保育園ですが、いつできたのでしょう? 犬たちは日々どう過ごしているのでしょうか?

 「できたのは2012年8月です。具体的にはペット代行のようなものです。10時に飼い主さんから迎えて、18時に見送ります。餌やり、散歩に行くなどをしてゆっくり過ごしていますよ。日によって違うのですが、現在は約10匹、預かっています」

 そうなんですね~。てっきり、芸の練習をしているのかなと思っていました。

 「ワンちゃんたちは、人間が教育しなくても、周りのワンちゃんと共に過ごすだけで、十分学んでいるんですよ」

 え!? それはどういうことでしょうか?

 「人間を教育する場所の多くは、目的が『自立』だと思うんです。一人でも生きていける力をつけるためですよね。ワンちゃんの場合は、『共存』。自分以外の人、犬と共に生きていく力をつけることが大切だと考えています」

 なるほど。それで特別なことはせずに普段通りの生活をしているわけですね。

 「そうです。飼い主さんの中には、日中は忙しいということで預けにくる人もいますが、しつけ方を教えてもらいにくる方もいらっしゃいます。ここでは、私たちが教えなくても、ワンちゃんは自然に他の犬を見て勉強します。トイレの場所や他人への対応の仕方などを教え合ったり、たまにけんかをすることで思いやりも覚えていきます」  へぇ~。何だか人間と同じ社会性を育んでいるのですね。

犬にも安心感を

 「いぬの保育園ワン,S」は、犬に必要な知識が学べる場所なんですね。いや~、新発見でした。 どうして、このような保育園を作ろうと思ったのですか?

 「学ぶ以外にも、安心感を覚えてほしいという願いもあります。基本的に、各家族にペットは一匹ですし、ワンちゃんは外で一人でいることが多いと思います。人間もそうですが、一人でいることよりも『一人だ』と認識することの方が寂しいと思います。ここでたくさんのワンちゃん、同じ仲間と触れ合うことでホッとした時間を過ごしてくれたらなと思っています」

 とても心温まるお話ですね。同じ生きている者同士、支え合う心が大事なんですね。

 新垣さんは、調査員に園内を案内してくれました。大きな遊具などはなく、トイレの場所と所々にマットが敷いてあります。そのマットで寝ている犬もいれば、犬同士でじゃれ合っていたりとさまざま。調査員が入ると、ワーッと集まってきた犬たち。時間がたつと、調査員のそばで横になったり、そっとすり寄ってきたりしました。

 「保育園に入ってきたばかりのワンちゃんは、やっぱり慣れていないこともあって出入り口の前で鳴いたり、他の犬と仲良くなれなくてけんかをしたりすることがあります。ですが、ゆっくりと徐々にとけ込んでいきます。その成長もとてもうれしいんですよ」と笑顔を見せる新垣さん。

 生き物が共に暮らす心豊かな環境を目指していることが伝わります。「同保育園」には、なんだか人間も学ぶものがありそうですね。

 誰かと共に生きていく力、自分にはどのくらいあるのだろうかと、考えてしまった調査員でした。

犬も保育園に通う?
新垣ひろ子さん
犬も保育園に通う?
普段は別々に生活しているとは思えないほど、リラックスして過ごす犬たち=那覇市首里平良町にある「いぬの保育園ワン’S」
>> [No.1450]号インデックスページへ戻る

↑このページの先頭へ戻る

<< 前の記事  次の記事 >>