沖縄の日刊新聞「琉球新報」の副読紙「週刊レキオ」沖縄のローカル情報満載。



[No.1440]

  • (土)

<< 前の記事  次の記事 >>

「表紙」2012年11月01日[No.1440]号

沖縄を食べよう 26

沖縄を食べよう 26(2012年11月01日掲載)

金城 正光さん(56)

クレソン(南城市)

水が命の栽培法

 南城市玉城。「垣花樋川」といえば環境省が選定する日本の名水100選にも選ばれている有名な樋川だ。その水を利用して栽培されたクレソンは南城市の名産品にもなっている。流れる水の音と、眼下に広がる知念の海を楽しみながらの畑作業。「ここは、いろいろな人が来るからね。ふつうの畑だったら誰も来ないでしょ? そう考えたら恵まれた農業だなって思うよ。クレソンは水が命だからね、この水を使ってるんだからおいしくないわけがないさ」と金城正光さん(56)は胸をはる。

地域の名産品 残したい

 56歳ともなればベテランをイメージするが、金城さんは農家になってまだ6年目。それまでは建築業で生きてきた。

 南城市玉城百名、垣花樋川のすぐ近くで生まれた金城さんは、幼いころに両親と死別している。父は6歳で、母はわずか1歳だった。両親を失い、祖母に引き取られた。迷惑はかけられない。そう心に決めながら育った彼は、中学卒業と同時に働きにでた。職種を選ぶつもりもなく、15歳で建築の世界に入った。

 「最初はきつかったけどね。そんなこと言ってられなかったから」

 まだ少年と呼べる年齢で、社会の荒波にもまれながら、必死に食らいついてきた。まじめな働きぶりで、次第に現場監督を任されるようになる。26歳だった。

 「監督するようになって、いろいろ学んだよ。人を使うのは大変だなって」

 日々の仕事に追われながら、2級建築士、2級土木施工管理の資格も取得。結婚し、子供も生まれた。 人生の転機を迎えたのは37歳。経験を生かし、自ら建築会社を起業する。それからおよそ13年。2度目の転機が訪れる。農家への転身だ。

 「同級生から、樋川の畑の高齢化が進んで、継ぐ若手もいないから、だんだん荒れ地になってきてるって聞いて。せっかくいい水と畑があるのに。このままだと、クレソン作りする人がいなくなる、残していきたいって。だから会社やめて、農家になったわけさ」

 同級生から土地を借り、荒れ地だった畑に経験と技術を存分に注ぎ込みおよそ270坪の畑をよみがえらせた。

 「クレソンは水耕栽培だから、水が命。水がとどまることなく上から下に流れていくようにしないとすぐダメになっちゃう」

 樋川からの水はパイプで引き込み、1段目の畑に流れ込む、そこから2段目の畑に誘導、3段目、4段目と見事に上から下へ流れていく。だが、水量は日によって違う。パイプの位置を固定すると微調整ができず、流れが止まってしまう。そこで金城さんは土のみで形成し、水量によって形成し直すという手法をとっている。水は上から下へ、収穫は下から上へと進む。

 「これがキツイよ。カニとミミズとの闘いさ。土だからね、こいつらが穴を掘って水が外に流れて、下にいかなくなっちゃうわけよ」

 クレソンはおよそ1カ月で収穫できるためサイクルが早い。朝5時には畑に出て、収穫・出荷を3度繰り返す。その合間に、収穫を終えた畑をつぶし、形成し直す。一日の大半を中腰で過ごし、帰宅するころには背中とももがパンパンになっている。そんな毎日を5年過ごしてきた。今では畑はおよそ330坪に増え、収穫量は年間で15トンを超えるまでになった。

 「農家は本当に大変よ。休みもないしねぇ。収入も半分ぐらいになっちゃったしね(笑)」

 それでもやめようと考えたことはないと金城さんは言う。

 「月並みだけど、やっぱり収穫して出荷すると本当にうれしくてね。それに、毎日、樋川に来た人とふれあえるから。景色もいいしね。友達がたくさんできたよ。それに、まだ小学生の子どもがいるから、もっとがんばらないとね(笑)」

 樋川の水のように澄んだ瞳でそう、にっこりと笑った。


佐野真慈/写真・佐野真慈



金城正光さん
畑をバックに収穫したばかりのクレソンを抱えて笑う金城正光さん=南城市玉城
金城正光さん
プロフィール
 きんじょう まさみつ 1956年南城市玉城生まれ。
 幼いころに両親と死別、祖母に育てられる。中学卒業と同時に就職し、建築業の世界へ。37歳で建築会社を起業するも、垣花樋川を利用したクレソン畑の現状と将来を憂い、50歳で農家へ転身。一から畑を作り直し、現在では約330坪の畑を造成。出荷量は年間約15㌧を超えるまでに成長。地域の名産品の継承と品質の向上を目指し、日々、奮闘中。
金城正光さん
☆金城さん家のオススメレシピ☆
クレソンとポークのおにぎり
生ハムとクレソンのサラダ
クレソンとツナのおひたし
ポークソテー・クレソン添え

 おにぎりとおひたしは、クレソンを軽くボイルし、しっかりと水気を切るのがポイント。クレソン独特のピリッとした辛みとさわやかな後味が最高です♪ 油との相性がとても良いので、ポークソテーのクレソンは豚肉から出た油でいためてくださいね! サラダはどんなドレッシングでも合いますよ!
>> [No.1440]号インデックスページへ戻る

↑このページの先頭へ戻る

<< 前の記事  次の記事 >>