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[No.1423]

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「表紙」2012年06月21日[No.1423]号

沖縄を食べよう 17

沖縄を食べよう 17(2012年07月05日掲載)

定置網漁(奥武島)
嶺井 尚人さん(35)



 愛する海とともに

 奥武島は南城市役所(旧玉城村役場)から約2・南の太平洋に浮かぶ人口が約1,000人ほどの小さな島だ。
 名物は多く、ハーリーに、天ぷら、そして、嶺井さんの獲る新鮮そのものの近海魚たち。「今日は晴れて良かったね」「気持ち良いでしょ? やっぱり海は良いね」と、エメラルドグリーンの海に浮かぶ船の上で、嶺井さんは海人らしく真っ黒に日焼けした顔に笑顔を輝かせる。そんな彼の足もとで、網から揚げたばかりの魚たちが船底を尾びれでピチピチピチとリズムよくたたいていた。

 島の暮らし守りたい

 なぜ漁師に? という問いかけに嶺井さんは悩む。

「なんでって? う~ん、難しいこと聞くね。自然によ。子どもの時からじいちゃんの手伝いをしていたし、家はみんな海の仕事しているから」
 家の仕事だったからと答える彼に、迷いはなかったのか?とさらに聞くと。

「少しはね。でも、海が好きだし、じいちゃんの歳を考えたら、自分が継ぐしかないだろうと思ったから。今でも2人で漁に出る時もあるけどね」と笑う。

 嶺井さんが出港する時間は潮の満ち引きや天侯によって変わるが、沖合に設置している網を回り、帰港するのにだいたい2~3時間はかかる。網にかかる魚の種類はさまざま。ミーバイにエーグヮーやミジュン、アジに島ダコ、カニまで入る。獲れた魚は、30分もしないうちに、漁港のすぐ前で彼の母が経営する鮮魚店に並ぶ。まさに「イマイユ(新鮮な魚)」であることを知っている客も多く、魚が揚がる時間に合わせて、飲食店の仕入れ担当者などが島外から訪れるほどだ。

 「でも、定置網だけじゃ全然食べていけない。漁獲量は昔と比べ物にならないみたいだね。年々、海が汚れてしまって。網を揚げたらビニール袋なんかのゴミも一緒に入っていることも多いし」

 漁師なのに、まるで海の掃除屋みたいでしょうと、少しさみしそうに彼は話す。年々減っていく漁獲量。どうやって生計を立てているのか? そこには、島で唯一の船大工という、嶺井さんが祖父から引き継いだもう一つの顔が隠されている。

 「昔はもう一人いたんだけど。今は、じいちゃんと自分の二人しかいない。もともと、仕事を継いで、この島で生きていくって決めた時からこの2つはセットだったからね」

 そもそもはサバニを造るのがメーンだったのだが、時代の流れと共にサバニを使う漁師は減り、すでに島で唯一の存在となっていた祖父の代からハーリー船の製造が主になってきたのだと嶺井さんはいう。 

 奥武島の名物でもある海神祭のハーリーに出艇する船は、すべて彼らが制作したものだ。漁師としての悩みもあれば、船大工には船大工の心配がある。

 「やっぱり、人を乗せるからね。いくら形が良くても、実際に海に浮かぶまでは、本当に大丈夫だろうかって心配するものだよ。それに祭りは年に一回のハレの舞台。もし船が沈むなんてことになったら責任重大でしょう(笑)。だから、無事に走っているのをみると心の底から安心するし、その時に初めて良かったって感じるかな」

 たった二人の船大工。喜びも独り占めだが、島の伝統を守るという責任も同時に肩にのしかかってくる。

 「継ぐって決めたときから覚悟は決めているからね。この島で生まれて、この海で獲れたものを食べて育ってきているから」 海と一緒に暮らしてきた奥武島の生活を守り続けていきたいというこの思いは、きっと、この島で暮らす、すべての人たちの思いであり願いでもあるのだろう。朴訥だが真摯な彼の言葉からは、島への愛があふれていた。


佐野真慈/写真・佐野真慈


定置網漁(奥武島)嶺井 尚人さん

かなりの大物が獲れて満足そうな嶺井尚人さん=南城市奥武島

定置網漁(奥武島)嶺井 尚人さん

プロフィール

 みねい なおと 1976年生まれ。島には小・中学校がなく、橋を渡ってすぐの玉城小・中学校に通学。その後、南部商業高校に進学。卒業後は島の伝統と暮らしを守りたいと18歳で祖父の後を継ぎ本格的に漁師の道へ。また同時に船大工の仕事も継ぐ。今年行われた、奥武島・海神祭のハーリーでは3艘(そう)のハーリー船がデビューしている。31歳で結婚し、現在は2児の父。保育園に通う長男が、ゆくゆくは仕事を継いでくれたらと願っている。

定置網漁(奥武島)嶺井 尚人さん
☆嶺井さん家のオススメレシピ☆
アジとイカの刺身
エーグヮーのバター焼き
カニ汁
 イマイユはやっぱり刺身が一番! プリップリです。バター焼きにはニンニクを効かせるのが嶺井家流。カニ汁はあっさりとした味付けのほうがカニから出たダシを丸ごと味わえますよ♪
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