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[No.1416]

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「表紙」2012年05月17日[No.1416]号

沖縄を食べよう 11

沖縄を食べよう 11(2012年05月17日掲載)

「甘い」の声聞きたくて
安谷屋健治さん(39)スイートコーン(糸満市)



 糸満市喜屋武。ニンジンや電照菊などの畑が広がり、時折、あぜ道をゆっくりと走る軽トラックが遠くに見える。そんなのどかな風景の中に、安谷屋さんの畑はある。スイートコーンと言ってもその種類はさまざま。彼が栽培するのはイエローコーンと呼ばれ、実が黄色で甘みが多い品種。勧められるままもぎたてをかじると、果汁がしたたるほどジューシーでその甘さに驚いた。「ビックリでしょう? その『甘い』って言葉を聞く瞬間が一番うれしいんです」といたずらっぽく安谷屋さんは笑った。

 親を知り子に励まされ

 安谷屋さんは農家の次男として生まれた。そう聞くと、家業を継いだベテランのようだが、実は農家になってまだ6年ほどしか経っていないのだという。

 「高校を卒業してすぐ、東京の建設会社に就職したんです。農業をやるなんて当時は考えてもいませんでした」

 農業の「の」の字も頭にないまま、会社員となった彼は、結婚し子宝にも恵まれ順調に東京の地に生活の根を下ろしていく。気付けば14年の月日が流れていた。

 「このまま東京で暮らしていても良かったんですけど、子どもたちの環境を考えたら、都会で育てるより青い海と空に囲まれた沖縄で、のんびり育った方が良いんじゃないか?って」

 子どものためにと帰郷した安谷屋さんは、慣れ親しんだ内装業をしながら、実家の農業を手伝うようになる。

 「東京にいる間に父が他界してしまって、それからは母が一人でやっていたので、仕事の合間を見つけて手伝うって感じでしたね」

 母を手伝ううち、さまざまな思いがよみがえってきた。

 「小さい頃のことをよく思い出しましたね。父は農作業の合間にも他の仕事を、母は夜中に家を出て、牧志の農連市場で野菜を手売りしていました。その苦労がどれほどのものだったのか文字通り、身に染みて分かりました」

 両親の苦労を知り、農業の厳しさも体で理解した。それでもいつのまにか魅了されていた。

 「何をするにも自分の力で全部決まる。土をどうするのか? 肥料の量は? 植えつけのタイミングは? いろいろなことを必死になって考えて考え抜いて、全身全霊で自然にぶつかっていくような感覚です。それでも天候によっては水の泡になってしまうこともありますけど、結果として収穫できた時の喜びを知るとやめられませんよ」

 父母が丹精をこめて守ってきた畑を引き継ぎ、農家として生きていく覚悟を決めた安谷屋さんは、地域の特産品でもあるニンジン栽培のための土づくりとして父が始めていたスイートコーンに着目し、本腰を入れて栽培するようになった。

 「畑も人間といっしょで同じものばかりだと疲れてしまうんです。そこで、違うものを植えて土に気分転換してもらおうとやり始めていたんですけど、実際に収穫して、子どもたちに食べさせてみたら『すごく甘い』って大絶賛してもらったのがうれしくて、それに味をしめたんです(笑)」

 安谷屋さん自慢のコーン。試行錯誤をくり返した結果、その糖度は15~16度にもなる。スイカ(11~13度)やイチゴ(12~13度)に勝るとも劣らない甘さを誇るまでになった。

 「スイートコーンと聞けば北海道をイメージされると思いますが、沖縄でもこんなに甘くておいしいものが採れるんだってことをもっと知ってほしいですね」

 両親から受け継いだ畑と、背中を押してくれる子どもたち、つやつやと輝くコーンが、安谷屋さんを力強く前進させている。

 佐野 真慈/写真・佐野真慈


「甘い」の声聞きたくて
収穫前に成熟度をチェックする安谷屋さん=糸満市
「甘い」の声聞きたくて
プロフィール
 あだにや けんじ
 1972年糸満市喜屋武生まれ。高校卒業後、兄をたより上京、建設会社に就職。その後、結婚し子供を授かるなど順調な生活を送っていたが、子どもたちの環境を考え、32歳で帰郷。内装業のかたわら実家の仕事である農業の手伝いをすることで、その魅力をあらためて知り、33歳で農家への転身を決意。土づくりの一環として栽培していたスイートコーンに着目。本腰を入れて栽培するようになり、現在、出荷数は年間2000本を超える。
「甘い」の声聞きたくて
☆安谷屋さん家のオススメレシピ☆
 とっても甘いので、シンプルにゆでただけが一番おいしい! レンジでチンがオススメ。また、成熟前に収穫されたベビーコーンはシャクシャクとした食感が楽しめるので、天ぷらや煮物など、いつものレシピに加えると、一味違った歯ごたえが最高ですよ!
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